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夏のざわめき
【OL/お姉さん 官能小説】

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夏のざわめき-1

バスを下り立つと途端に蝉の声が響き渡る。
ローカル線を下りてからバスに乗り、そうしてここでまた乗り換える。

カルチェを覗けば午後三時に近づいていた。
去年、やっとの事で買った私の宝物だけど、ここではただの腕時計に過ぎないのだ。
おそらく誰もこの時計を見て誉めてはくれないだろう。

蝉の声ぐらいどこでも聴こえるものだけど、ここではもう半端じゃない。
正面は昔からそこにある鎮守の杜を蠢かすようにそのざわめきはどの方向からでも響き渡る。

私はこんな環境で育った…

ここへ来て改めてそれを実感する。
バスが来るまでは30分以上待たなければならなかった。
想定できた事だったけど、一時間に一本あるかないかの路線バスだから、ここは半分で済んだとでも思わなければならないだろう。

高校生の頃ならここから歩いて帰宅したりもしたものだが今はとてもじゃないがそんな気力は起きない。
距離にしてみればそう大した事もないのだけれど、あの頃の脚力でも小一時間ほど峠を歩かなければならなかったと記憶している。

東京の学校に入って、それから今の仕事に就いて6年の時間が流れた。
むろん、その間にも何度かは帰省したけど、だんだんとその足は遠のいて行った。
そんな私を出迎えたのはここの強い日差しと蝉の声だったのだ。

「母さん…私、赤ちゃんできたみたい。」

「一緒になるのかい?その人と?」

「ううん、それが分からない。
結婚はしないと思う…」

電話の向こうで母はしばらく黙った。

「一度帰って来なさいよ。」

私は私生児なのだ。
幼い頃はそれが何の支障をきたす事もなかった。

集落の人たちの話をそれとなく聞いた事があるのだが私はどうやら母とその身内の間にできた子供らしい。
お祖父さんという人に一度だけ会った事があるが何だか干からびた能面のような痩せた人だったのを覚えている。

母はお兄さん…つまり私にとっては伯父にあたる人の話をよく聞かせたが、もう早くに亡くなっている。
もしかしたら、私は母とそのお兄さんの子供なのかも知れない。

だけど私は私生児である事が本当に何の支障をきたした事もないのであった。
私はこんな田舎で育って、そして誰ひとり私を知る人のいない東京に出て暮らしている。

とにかく母は私を身籠って親戚のところに身を寄せた。
ここも変わっていて(私がそう思うだけかも知れないが…)幼い頃はお婆さんと学生ぐらいのお兄さんがいた。
そのお婆さんが亡くなって気がついたら私と母の二人暮らしになっていたのだ。

私はそのあたりの事情を聞いた事などないし、無理にでも知りたいと思った事もなかった。

そのぐらい、私はここで平静に生きていたのだ。
ただひとつ、差し障りがあるといえば母はよく隣のおじさんとへんな事をしていたのだった。
これは今でも私だけの胸の奥に秘めている。


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