その(四)-4
夕食は二階で母親と一緒にすることになった。驚いたのは彼女の若さである。
「篠原くん、いらっしゃい。淳がいつもお世話になって」
「いえ、今晩は……」
(なんという……)
挨拶を交わしながら思わず心で声を上げていた。
ミニスカートからは肉感たっぷりの太ももが惜しげもなく露になり、大胆なキャミソールの胸元は豊かな膨らみが揺れて、私は目のやり場に困ってしまった。明らかに下着は着けていない。
格好だけではない。どう見ても自分たちの世代の親には見えない。むろん舞子と重ねるほど若くはないが、私の感情は舞子の面影に溶け合った情欲となっていた。
私がセックスを知らなかったら、扇情的な姿態を目の前にして悩殺され、思考も働かない混乱状態に陥っていたことだろう。舞子によって女体に向き合う免疫はいつの間にか相当なものになっていたようだ。
初めこそ緊張して落ち着かなかった視線もしばらくすると怖じることがなくなり、母親の目を見つめたあと、胸を見て、そのまま笑顔を返したりした。まるで意識していることを暗に伝えているような視線の乱用にさすがに自分でも自制の念が起こったが、母親の目がたびたび私に注がれるのを見て腹が据わった。
(意識しているのか?)
私と目が合うと表情に微妙なうろたえを感じる。
(けっこう可愛い……)
大人に対してそんな見方をしたのは初めてであった。
「おなかいっぱい食べてね。あたし料理下手だから、こんなもので悪いけど」
寿司は持ち帰り、から揚げもピザも冷凍である。
「お寿司とピザじゃ変ね」
一人で笑った。
『夜の仕事』のイメージからくるささくれ立ったきつい感じはなく、派手な第一印象の割にはやさしさが漂っている。
(セックスしたい……)
本気でそう考えたわけではなく、妄想に浸り始めただけだったが、完全に勃起していた。
栗田は食事をしながらほとんど喋らなかった。もくもくと怒ったように食べ、やがて、ふうっと息をつくと立ち上がった。
「下に行ってるから」
一人で出て行った。
「まったく。お友達がまだ食べてるのに。ごめんなさいね」
栗田の行動には少し驚いたが、残された私に居心地の悪さはなかった。むしろともし火のような小さなときめきが生まれた。
「急がないでいいからゆっくり食べて。あの子が早すぎるんだから。いつもそうなのよ」
栗田が使った器を流しに運ぶ後ろ姿を目で追いながら私の高まりは一段と熱をもった。
足首からふくらはぎ、太もも、尻の張り具合はいかにも女らしいラインである。その体に魅入られながら思い切って言葉をかけた。
「お母さんはすごく若いですね」
振り向いた彼女は中途半端な笑みを口辺に残しながらちょっと考える様子をみせた。
「あの子、あたしのこと、何か言ってた?」
「いえ、別に何も……」
「そう。……隠すつもりはないからいずれあの子が話すと思うけど。あたしは本当の母親じゃないの」
栗田の実の母は彼が小学生の時に亡くなって、
「再婚なの。あの子が十二歳の時」
それからわずか一年足らずで父親が交通事故で亡くなったのだという。
「どうしようかと思った……」
将来のことである。栗田もまだなついていなかったし、難しい年頃だからどうしたらいいかわからなかったと言った。
「正直逃げ出したかったけどね。籍に入っていたから戸籍上の母親だし、あの子も中学に入ったばかりで……」
可哀想に思って二人でやっていくことにしたというのだった。
「仲良くしてやってね」
「はい」
私はなぜか重い気分になって頷いた。