プライスレス・プレゼント-2
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サーフィがフロッケンベルクで暮らすようになり、一年近くがあっという間に経過した。
明日は、六月の某日。
祝日ではないが、サーフィにとって非常に重大な日。ヘルマンの誕生日だ。
(今年こそ……っ!!)
内心で気合をいれ、拳を握る。
大好きなヘルマンに、いつかちゃんとした誕生日プレゼントを贈りたいと、ずっと考えていた。
シシリーナで吸血姫だった頃は、自由に出来るお金などなかったが、バーグレイ商会の護衛で貯めた給金も残っているし、士官学校で毎週、剣術師範を務めている分もある。
プレゼントを買うには十分な金額だろう。
でも……そのプレゼントは、一体何にすればいい?
この時期、フロッケンベルク王都は雪もすっかり解け、空気も暖かくなっている。
あと半月もすれば、各地から隊商が続々と森林を抜けてやってくる。
乏しくなってきた食料品を彼らの馬車から補充し、代わりに冬の間作っておいた品々をたっぷり売るのだ。
もうすぐ訪れる夏への期待に、通りは盛大に活気づきはじめていた。
見るだけでウキウキするようなショーウィンドウの列を、サーフィはじっくり覗きこむ。
店はたくさんあり、飾られている品物はどれも素敵なのに、これぞというものが見つからないのはどうしてだ。
この一年、ずっと探しているのに見つからないのは、どういうことだ。
真剣そのものに店先を凝視していくサーフィは、まるで果し合いに望む騎士のようだ。
もともと人目を引く美貌なので、殺気すら感じるその姿は余計に目立ち、道行く人がチラチラ振り返る。
街角に立っていたプレッツェル売りの男は、その様子を面白そうに眺めていたが、しまいに見かねたらしい。近づき声をかけた。
「お嬢さん。そんなに怖い顔をして、何をお探しかな?」
「!!」
ビクン!とバネじかけのようにサーフィは振り返り、ようやく我に返る。
「あっ!いえ、そ、それが…………え?」
美味しそうなプレッツエルが満載の籠を持った中年の男は、深めに被った帽子の下で、にこやかに目を細めている。
日に焼けた顔色は、染料で塗ったのだろうか。
この人がこんな場所でプレッツェルを売っているなど、たいていの人は思いもしないだろうが、間違いない。
「陛……」
思わず言いかけ、サーフィはあわてて口を押さえる。
「ごきげんよう、サーフィさん。一つサービスだ」
お忍び大好きなフロッケンベルク国王にして、自称・ヘルマンの甥っ子。ヴェルナーは、香ばしいプレッツェルを一つ差し出した。