その(二)-1
女優と舞子の共通点は見つからない。面差しが似ているように思ったのだが、見れば見るほどそうでもないように思えてくる。
何より女優の方が美人であることはいうまでもない。整った顔立ちを含め、容姿は舞子とは比較にならないほど美しい。それでも同じような『臭い』を感じる。
どこかに私を惹きつけるものがある。女優を見る時、舞子を想い、舞子を思い浮かべて女優を重ね合わせた。
夏休みに甲府へ行くことになったのは武と舞子のおかげといっていい。
聞いた話では七月に入ると武は毎日のように私との再会を母親(伯母)にねだっていたらしい。舞子も弟のためと装いながら後押しして、根負けした伯母が電話をかけてくるきっかけをつくったようだ。
「舞子が達ちゃんの勉強を教えるって言ってるのよ。高校生じゃたよりないんだけど」
舞子の学校は県内有数の進学校である。
「舞ちゃん出来るものね。それはありがたいんですけど…どうする?」
そばで聞いている私への訊き方はすでにその気になっていた。もとより数日遊んでも何の影響もないことは母もわかっている。
「相談して、また連絡します」
電話を切った母はすぐにカレンダーに目をやった。
「困ったわね。武ちゃんが会いたいんだって。気に入られちゃったわね」
仕方なさそうな顔を見せながら、母は自分の兄姉に会うのが嬉しいのだ。いい口実と思っているのだと思った。話す口ぶりは少しも困ってはいなかった。
「甲府行っていいの?」
「お父さんに聞いてからね」
その顔は決定したも同然の笑顔だった。
七月の下旬、私と母は甲府へ向かった。
勉強を教えてもらう……親に対してこれ以上の大義名分はない。母はもちろん、伯母たちにもいちいち断ることなく舞子に会える。勉強を教わるのだから当然なのだ。
彼女の家に行ってもいい。何度か行ったことがある。二階が舞子の部屋だ。あそこで二人きりになれないか。問題は武だ。くっついていられては困る。勉強に集中できるように伯母さんに頼んでみようか。……
都合のいいように考えを巡らせていたことが図らずも実現することになった。実家に訪ねてきた伯母のほうから家に来たらどうかと言ってきたのである。明日、武がサッカーの試合で夕方までいないから静かで落ち着くだろうという。
「そのほうがはかどるんじゃない?」
「姉さん、迷惑じゃない?」
「私らもお父さんと応援だからいないのよ。舞子もそろそろ大学決めなきゃならないし。二人で勉強したらちょうどいいわ。お昼は作っておくから」
私は踊り出したい気持ちだった。その場に舞子はいなかったが、おそらく知っていることなのだろう。
親たちは私と舞子を『男と女』とは微塵も考えていない。幼い頃から姉弟のように遊び、戯れた『イトコ』である。一緒にお風呂に入ったこともある。それに、舞子はともかく、私が童顔だったことも幼く見える要因になっていたかもしれない。
「すっかり大人っぽくなったわねえ」
母が舞子に言うことはあっても、私が伯母たちに言われたことはない。
「背が伸びたね」
そして来年は高校生だと知っておどろいたりした。
私はその夜、『臭い』に酔いしれながらペニスを握りしめた。