『清子と、赤い糸』-37
「あ、あぅっ、あ、あぁんっ、あっ、あっ……！」
夫の衛が非常に興奮しているというのは、その突き込みを受け止め続けた妻の清子であるからこそ、わかることであった。
「あ、ああぁっ、はげしいでっ、あっ、まーちゃん、はげしいよっ……！」
娘の律子の前では、衛のことを“おとーちゃん”と呼ぶが、二人きりの時は、幼なじみだった小学生の頃から呼び親しんできた“まーちゃん”と夫のことを呼ぶ、清子であった。球場では、三塁打を打った衛の姿に興奮して、娘の横で“まーちゃん”と呼んでいたが、それは稀なケースである。
「清子……清子……！」
「うはぅっ、あっ、ふ、ふかいとこまで、つきささっとるぅっ……！」
衛の興奮が充満して、固くなっている“大樹”で、ぐちゅぐちゅ、と胎内を蹂躙されて、清子は淫らな声を挙げていた。
二人の愛娘である律子は今、二人の祖母に挟まれて、幸せな夢を見ていることだろう。父親の活躍した試合を目の当たりにしていたこともあって、今夜はとにかく、すごい興奮状態だった。
『ウチも、とーちゃんみたいに、野球選手になるんや！！』
頼もしくそう宣言する娘を、楽しみに見つめる、清子と衛であった。
そのまま一緒にお風呂に入った後、興奮疲れで早々と就寝してしまった律子だったので、衛と一緒に“川の字”になろうとしたところ…、
『清子、今日みたいな時こそは、しっぽりせんとあかんよ』
『清子ちゃん。男の子が欲しいなら、今日は大チャンスよ』
という、実母と義母の煽りに赤面させられながら、二人の“好意”に甘える形で、今こうやって、夫婦の“行為”を交わすことになった。
「あっ、あっ、ま、まーちゃん、ウチ、もう、イキそうやぁっ……！」
“正常位”で、体を強く抱き締めあいながら、繋がった部分が艶かしく震えている。
「清子……出すぞ……出すぞ、清子……！」
「き、きてっ、きてやぁっ、ウチに、また、孕ませてやぁっ……！」
次は“男の子”が欲しいと、いつも秘かに願っていた清子だったから、衛の活きのいい精子を胎内で受け取ることに、なんの躊躇いもなかった。
「あ、ああっ、イ、イクッ、イクッ、ウチ、イクううぅううぅぅぅぅっ！！」
「う、おっ、き、きよこぉっ……！」
清子の身体が強烈な“エクスタシー”に包まれると同時に、衛の精が胎内で激しく迸った。
「あはぁっ、き、きとるっ……げ、元気なの、いっぱい、きとるうぅぅうぅぅっ！！」
活きのいい精子をたっぷりと浴びて、清子がまたしても絶頂に身を震わせた。
「はぁ、はぁっ……まーちゃん、ウチ、また、孕むよ、ぜったい……」
それぐらい、体の内側で弾けたものは、生命が芽吹く予感を、清子に感じさせるものだった。
「次は、男の子やからな……」
「そうだな……そうだったら、いいな……」
「そうに、決まっとるって……」
「清子が言うなら、そうに違いない……」
深い部分で繋がりあって、そのままの体勢で、夫婦は肌を重ね合わせたまま、営みの余韻を愉しんでいた。
「ふふ……でも、“上”に来て、いきなりヒット打つんやから、まーちゃん、やっぱすごいな」
「いつかまた、“アイツ”とも戦いたいからな。チャンスは、絶対に逃がさないさ」
前所属の“四国・ウィークエンドリーグ”のチームにいた頃は、１年で終わった“戦いたい相手との熱戦”だったが、こうして再び、今度は更にグレードの上がったリーグで戦うことのできる機会を手にしたのだから、それを逃すつもりはない。
「清子がまた、俺の子供を生んでくれたなら……」
「んっ……うん……」
「その子にも、今日の律子みたいに、俺は“目標”を与えてあげたい」
「ふふ、そうやな。それが、“父親”の役目やで」
早くに実父と死別してしまい、母子家庭で育ってきた二人だったから、“父性”の存在をあまり知らずに成長してきた。清子にとって、衛は、自分が持っている“全ての純潔”を捧げた、“最初で最後の男”だったから、“父性”の存在を、彼に見ていたこともあったかもしれない。
そこで不意に、清子は思い出したことがあった。
「実はな、おかあちゃんが、言うとったんやけど…」
「ん？」
「まーちゃんな、おとうちゃんに、似とるんやと」
「そ、そうなのか」
「ふふ。ウチ、知らんと、おとうちゃんに似とるっちゅう、まーちゃんのこと、好きになったんやな」
やはり、“運命の赤い糸”というものを、強く信じる清子であった。
「さて、と。……休憩は、バッチリやろか？」
「おう」
「ほな、二発目を……って、あっ、アンッ、ま、まーちゃん、いきなりやなぁ……！」
運命の導きによって巡りあい、別れの選択を選びながら、それでもずっと離れなかった“赤い糸”…。
「清子、愛している。世界中の、誰よりも、な」
「あっ、あっ、好きやで、まーちゃん。ウチも、世界で一番、愛しとるよ……！」
今でもしっかりと結びついているその“赤い糸”の存在を確かめながら、清子は、自分が今、世界で一番幸せな女である事を、強く強く確信していた…。
−『清子と、赤い糸』了−