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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-36



『…に代わりまして、バッター・岡崎。背番号・65』
 カクテル光線に包まれて、輝く“神宮野球場”のグラウンドの上に、清子が、娘の律子と共に待ち望んでいた瞬間が、ついに訪れた。
「きたっ、きたで、かーちゃん! とーちゃん、出てきたで!」
「こ、こら、座って、じっとしとりや!」
 リクルト・イーグルスの帽子と、レプリカ・ユニフォームを着ている、小学1年生になった娘の興奮を、清子はなんとか抑えて、観客席の座席に座らせた。
「ええやんか、清子。りっちゃん、ずっと、とーちゃん出てくるの、まっとったんやから」
「お、おかあちゃんなぁっ!」
「そうよ、清子ちゃん。本当なら、清子ちゃんが一番、はしゃぎたいところじゃないの?」
「お、おかあさんまでぇっ!」
 実の母親と、義理の母親に挟まれて、娘と同じリクルト・イーグルスの帽子を被り、レプリカ・ユニフォームを着ている清子は、顔を真っ赤にしたまま、座席の上で縮こまった。
 そして視線を、グラウンドに移す。
(がんばれ、まーちゃん)
 そんな清子の祈るような視線を浴びながら、リクルト・イーグルスの正規のユニフォームを身につけた、夫の衛が左打席に入っていた。
(やっと、ここまで、きたんやから……)
 大学を卒業した後、独立リーグの“四国・ウィークエンドリーグ”のトライアウトを受けた衛は、見事にその選抜試験を潜り抜け、そこでの活躍がスカウトの目に留まって、二年前の“育成ドラフト”でイーグルスの指名を受けていた。
 支配下登録選手を目標に、1年間を二軍で過ごした衛は、秋季キャンプで新監督となった宮城の高評価を受け、念願かなって“本契約”を勝ち取った。
 そして、開幕からひと月を過ぎた頃、一軍の内野手に故障者が相次いだ状況を受ける形で、二軍で成績を収めていた衛が抜擢され、ついに“一軍昇格”を果たしたのである。
 29歳になっている衛は、この試合が“一軍デビュー”にはなるが、年齢で言えば“中堅選手”の領域に入っている。おそらく、今年が、選手として最後のチャンスであるのは間違いない。
(でも、まさか、まーちゃんが、あんな形で、“西の方”に来るとは、思わんかったなぁ……)
 大学の最終年次に再会をして、恋人として“ヨリ”を戻したわけであるが、衛が卒業後の進路に、“四国・ウィークエンドリーグ”への参加を選んだのには、随分と驚かされたものだ。
『どうしても、“戦いたい相手”がいるんだ』
 “四国・ウィークエンドリーグ”は、清子のいる“西日本方面”であり、それも後押しはしたのだろうが、それ以上に、衛には“野球”に対する熱が燃え上がる“きっかけ”があったらしい。
『まーちゃん、ええ顔しとるな。惚れ直したわ』
 そんな衛を、支えようと清子が決意したのは、言うまでもない。彼女はすぐに、野球が中心の生活となった衛の食事・健康管理を請け負い、野球選手のパートナーとして、二人三脚で歩みを始めた。
 “四国・ウィークエンドリーグ”の選抜試験を通り、分配ドラフトを経て、リーグのチームのひとつである“朱雀フェニックス”の一員となった衛は、当初こそ、硬式野球の勘を取り戻すことに苦しめられたが、すぐに順応して、その俊足巧打を遺憾なく発揮するようになった。
 衛が言う“戦いたい相手”とも、何度も火花を散らし、好勝負を繰り広げて、“好敵手”として切磋琢磨しあうその姿を、清子は観客席で応援し、支え続けてきた。
『俺には、清子しかいない。結婚してくれ、清子。それで、死ぬまでずっと、そばにいて欲しい』
 リーグ1年目の終了と共に、清子は改めて、衛からプロポーズを受けた。
『“赤い糸”って、ホンマにあるんやなぁ』
 もちろん、それを清子は受け止めて、入籍を果たした彼女は、“陵 清子”から“岡崎清子”に姓が変わった。小学生のときの出会いから、別れを一度挟みながら、それでも切れなかった“運命の赤い糸”の存在を、この時ほど強く信じたことはない。
 すぐに“律子”と名づけた娘も生まれ、お互いの母親同士の仲もよく、賑やかで幸せな家庭を、清子は手に入れることが出来た。
 衛が目標としていた“戦いたい相手”との対決は、故あって“1年”で終了したが、その後も“四国・ウィークエンドリーグ”で奮闘を続けた衛は、先述の通り、その“俊足巧打”と“堅守”を買われて、リクルト・イーグルスから“育成ドラフト”での指名を受けた。
 子連れで、しかも、20代半ばに達していたこともあって、慎重な考えをしていた衛だったが、
『男なら、がつんと、いっちょう、やってみいや!』
 と、いう、清子の発破を受けて、“育成選手”としてイーグルスに入団した。
 その後、更に苦闘と熱闘を重ねて、とうとう“支配下選手契約”を果たし、今こうして、“一軍”の選手として、グラウンドに立ったのである。

 カキィィン!

「わあぁっ!!」
 甲高い木製バットの音が響くと、娘の律子が立ち上がった。打球は峻烈な勢いで左中間を突き破り、快速を飛ばした衛は、ヘッドスライディングで三塁まで到達していた。
 プロ初打席で、二人の走者をホームに返す、見事な“適時三塁打”を放ったのである。
「とーちゃん、やった、とーちゃん、とーちゃん!!」
「まーちゃん、やった、まーちゃん、まーちゃん!!」
 同時に、娘と母とがその場に立ち上がったまま、二人にとっての“ヒーロー”に、いつまでも歓声を挙げていた…。



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