アンバランスな愛-1
ゆらゆらゆらゆら
身体が揺れてフワフワしている。
髪を撫でている手だけが妙に現実的で、ゼインはそっと目を開けた。
「起きましたか?」
懐かしい声……キツイ実験後、いつもこうして撫でていた手を思い出しゼインは薄く笑う。
「……何でかなぁ……アンタなんか大嫌いで、殺したい程憎いのに……見捨てらんねぇ」
だから、一緒に死んでやろうと思った。
殺したい程憎くて、生かしておけなくて……それでも見捨てられないから……だから一緒に死んでやろうと……。
「君にとって、私も特別なのでしょうね」
珍しくまともな返答が返り、ゼインは目を瞬いた。
(あれ?)
男はあの時のままの姿だった。
長い白髪に乳白色の目……ゼインを膝枕して髪を撫でる手もあの時のまま。
「私は君の見ているモノが見たかった。君の世界は輝いていて、永く存在していた私が見る事の無かった世界でした」
「?」
ゼインは目を瞬いたまま男の顔をジッと見つめる。
何か違和感がある……いつもと違う……その正体に気づいたゼインは、瞬いていた目を丸くした。
男は……優しい笑顔を顔に浮かべていたのだ。
「私は存在する事に飽きていたんです。変わらず流れていく日々に」
ゼインの耳の付け根を指で掻いた男は、ぴるぴる動く耳にクスリと笑う。
「たまたま手に入れた魔物の力で世界が広がり、知りたい事や試したい事が増えましたが……結果はそんなものかという感じでしたね」
知りたかった事は産まれて、生きていく事の意味……だから、沢山増やして強くして……大勢の人の心を覗いて……それでも意味は分からなかった。
「産まれるのに意味などない……生きるのにも死ぬのにも……意味などないんですね」
男は、自分は何をしてきたのだろう、と自嘲気味に目を伏せた。
「意味はあるよ」
ゼインは腕を上げて男の長い髪を掴む。
「俺はアンタに作られて売られて……沢山の人に会ったよ。いけ好かない奴隷商人にキモいホモショタ親父、ドSの女王様……陰のある男みたいな女に、カリーにポロに……」
ゼインは反対側の手で指折り数えていたが、片手じゃ足りなくて手を下ろした。