『桃子記念日』-11
「も、もも、ア、アタシ、へ、へんだよぉっ……」
ぷるぷると、体を可愛く震わせ始めた遼子。
「イキそうなんだ」
「イ、イク……? こ、これが、そうなの……?」
「なるほど……」
くちゅくちゅっ、もみもみっ、ふっ……
「んひあぅううぅぅっ!」
遼子はどうやら、エクスタシーの経験がないらしい。自慰の経験があると言っていたが、深度のある絶頂までは至らなかったようだ。
「いいわ、遼子。そのまま、心をぜんぶ開放するの。飛んでいいのよ」
「あ、あぅっ、や、こ、こわい、こわいの、ももっ……!」
心が空を飛ぶ感覚に、遼子がおびえを見せている。身体の中を駆け巡る、初めての快感に、心が追いつかないようだ。
「だいじょうぶ。あたしが、見ててあげるから」
「あ、あっ、も、ももっ、だ、だめっ、あっ、ああっ……!」
ひときわ大きく、遼子の身体に震えが走った。
「やあっ、あ、あ、ああぁああぁあぁぁぁっ……!!」
腰が浮き上がり、全身に痙攣が起こった。それは間違いなく、遼子にとって初めての、“エクスタシー”の発現であった。
「あ、あぅ……ん、んぅ……あふ……」
びくびくと、遼子の身体が小刻みに震え、魂を解放したような蕩けた表情で、遼子が硬直と弛緩を繰り返している。
「フフ……遼子、可愛いわよ」
「………」
やがて、身体に落ち着きを取り戻した遼子は、その全身を脱力させたまま、気恥ずかしさがあるようで、桃子の方は見ず、顔を横に背けていた。
「こ、こんな、いやらしいこと、アンタ、何処で憶えたのよ……」
「まあ、あたし、おにいちゃんいるからね。この手の情報は、すぐ手に入るのよ」
「そ、そうなんだ」
「そういうことよ」
桃子は、自分にとっての“保護者”である、十歳離れた従兄の存在を、皆には伝えていたが、体のありとあらゆる場所を全て捧げた相手であることは、伝えていなかった。寮内でことあるごとに、“独り身”であることを喧伝しているが、それは“フェイク”である。
「遼子、スッキリしたみたいね。眉間のしわが、なくなってる」
「そ、そんなにひどい顔してた?」
「うん」
絶頂の姿を晒したことで、桃子に対する険が遼子にはなくなっている。
「……あの、さ。もし、その、アタシがまた、調子悪いように見えたらさ……」
「ええ。いつでも、“マッサージ”してあげる」
「……おねがい」
遼子の頬が、真っ赤になった。桃子の代名詞である“セクハラ・マッサージ”の虜になった証であった。
その後、心身のバランスを取り戻した坂場遼子は、スランプから脱して、これまで以上の成績を挙げるようになり、秋口には日本代表候補選手として、強化合宿に選ばれるほどの選手となった。
「おやおや、アナタ、だいぶ溜まってるわね」
「や、やめてください、桃子先輩! あ、やっ、ああぁあん!!」
「ふむふむ、アナタ、かなり凝っているわね」
「わ、ちょっ、やめなさい、桃子! あ、んっ、ああぁあん!!」
桃子の“セクハラ・マッサージ”によって、女子寮に響く甘い声は、当然ながらその後も消えることはなく、しかし、それを受けた女学生たちは例外なく、その後の調子が良くなっているので、寮全体の雰囲気の向上に陰ながら役立っていることは、桃子のセクハラ行動全般を、厳格な寮長(※彼女もときおり、セクハラ・マッサージを受けている)が黙認していることでも明らかであった。