冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-6
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「お前ら、何なんだよ!?」
龍也は剣で相手二人をなぎ払うような仕草をする。
もちろん、距離を取っているので当たるはずもない。
今、龍也は楓とは離れてアキレスの部下二人と対峙している。
「俺はファング=コードだ」
名を名乗ったファングという男は青竜刀を構えていた。
そしてその後に盾を持った男がファングの前に出る。
「俺はフォートレス=コード」
龍也はその名前に聞き覚えがあったが、思い出さないようにした。
「むやみに思い出すと闘いづらくなっちまう」
いくら戦闘欲を持つと楓に妄想されている龍也でも知り合い相手だとやりにくい部分も出てくる。
だからこそ思い出さない方が闘いに集中できるというわけだ。
「本当はアキレス説得して事件解決させたかったんだがな…」
当の本人はもういない。
自分達の事は無視された。
龍也にとってそれが屈辱でならない。
「あの野郎…絶対説得してやる!」
無理だったら闘う。
龍也の中で予定が決まった。
「だがその前にお前達をさっさと倒す!」
龍也は剣を構えた。
「俺達に勝つ気でいるのか?」
言ったのは青竜刀の方、ファング。
「おめでたい奴だ」
今度は盾の方、フォートレス。
「行くぞガキ!」
向かってきたのはもちろんファングだ。
フォートレスの盾を見る限り、あのでかさでは攻撃はできない。
何せフォートレスの首から足の下あたりまである盾だ。
決してフォートレスが小さい訳ではない。
コード兄弟の身長は龍也よりもややでかい。
それを考えると、
「二人で一つって事かぁ!?」
龍也もファングに向かって走っていた。
と同時にフォートレスがファングの背中にぴったりと張り付くように走ってきている。
「おらっ!」
龍也が刀を横に振ったとき、コード兄弟の順番が入れ替わっていた。
フォートレスの方が兄を馬跳びのように飛び越えて龍也の攻撃をガードしていた。
…止められた!!?
龍也が一瞬考えに陥った瞬間にすら二人は動いていた。
今度はファングが龍也の左から剣を振っている。
「くそっ!」
かわせねえ!
隙をつかれ、龍也は焦った。
が、その攻撃は通らなかった。
「楓!」
ファングの青竜刀を楓がトンファーで止めていた。
「ごめん、龍也、ちょっとショック受けすぎてたみたい」
楓はちょっとしたミスのようにテヘッと笑う。
「しっかりしてくれよ、特攻副隊長さん?」
龍也もまた笑いながら楓の笑みを受け止める。
「はぁ!」
楓の気合いの入った声と共にファングの青竜刀は弾かれた。
龍也も同じタイミングでフォートレスからバックステップする。
そして二人はコード兄弟から距離を取ったかたちで並ぶ。
「俺達は戒のトップ集団なんだぜ?
上の仕事はキッチリとこなさねえと下の奴らにおいぬかれっぞ」
楓は龍也に頭を撫でられながら言われたのが恥ずかしく思い、頬を赤くする。
「わ、分かってるわよ!」
「おし、じゃあショックで動けなくなってたことは忘れてやるよ」
「言ったら別れるからね!」
「お〜、怖い怖い」
楓の言う別れるとは彼氏彼女の縁を切るという意味だ。
「それじゃあさっさと任務終わらそうぜ、な?」
確認の問い。
今まで何度もこのセリフを聞いた。
それだけの間楓は龍也と共にいたのだ。
そして自分はいつもこう答える。
「当たり前でしょ?」
楓は目の前にいる敵に武器を構えた。