冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-20
「…私もあの人のことは許せません。
でもあの人は闘夜さんと同じ目をしていました」
『月光色の眼』
今の闘夜にはでていないが、確かにその共通点はある。
もしかしたらそれが少女のいう仲間なのではないのか。
「俺、それにはあんまり自覚ないんだけど同じ目の色だったのか?」
「はい、アキレスさんとの戦いが終盤に入ったときの闘夜さんの目は間違いなくそれでした。
そしてその瞬間闘夜さんの口調と強さは激変したんです」
癒姫の目からは別人のようだった。
それまでの闘夜が嘘であるかのように変わった。
「そして私が受けた任務。
神無月 闘夜の抹殺指令の執行条件はそれだったんです」
『神無月 闘夜の瞳の色が異種だった場合、ただちにこれを排除せよ』
これが癒姫の受けた命令の内容だ。
だから癒姫は最初に会ったときの闘夜は殺さなかった。
目の変化などありえないと思っていたから、確率0.01%だと言ってのけた。
だが、その確率は0ではなかった事がアキレスとの戦いで証明されたのだ。
「俺を…殺すのか?」
真剣な目つきで問いかける。
怒りも恐怖もない。
ただ熱心に癒姫を視線で貫いている。
癒姫は返事に迷っていた。
「殺せよ、俺を」
癒姫はゆっくりと闘夜の顔を見る。
そこには暖かい微笑みがあった。
「俺が死んだらお前は任務達成できるんだろ?
それに俺はアキレスの所に行って謝る事ができるしな」
「殺しません!」
癒姫はさらに身を乗り出して顔と顔を近づける。
「闘夜さんさっきあの女の子を倒すって言ったじゃないですか!
それが今は一番アキレスさんの為になります!
私もできる限り協力しますから一緒に倒して土下座させちゃいましょう!」
今までの癒姫からは考えられないような剣幕で言われて闘夜は慌てる。
それに、顔が近い。
「あ、ああ、そうだな…」
ははは、と苦笑い。
それ以外に対応のしようがなかった。
「そういえばレクイエム・ホープはどうなったんだ?」
考えてみれば闘夜の手にあったはずの木剣がなくなっている。
「闘夜さんが倒れた後すぐにお爺様の元へと帰って行きました」
あれは元々癒姫の祖父、一神 玄武の武器。
闘夜もそれは知っていたが、
「そうか、あいつとはもっと話がしたかったな」
ため息と共に言葉を吐く。
…もうあいつと逢うことはなさそうだな…
考えながら、闘夜はいつの間にか顔を離していた癒姫を見る。
「癒姫、俺そろそろ帰るよ」
癒姫は頭の上に疑問符を浮かべながら、
「どこにですか?」
「俺が元々いた地上にだよ」
その意味を理解してからようやく癒姫は驚いた。
「そ、そんな!?
あの女の子を倒すって言ったじゃないですか!?」
闘夜を引き留めるのに敵であるはずの少女を使ったことに癒姫は少し後悔した。
「いや、俺にも俺の生活があるし、確かにあの女の子は倒して土下座でもさせるが
俺は向こう側の人間だから向こうで生活しないと…な?」
癒姫はこれ以上説得できないことを知ると部屋のドアに向かって歩き出す。
そしてドアのノブに触れた。
しばらくすると、癒姫がドアノブから手を離した。
なのにドアは勝手に開いて真っ暗な中を見せる。
「冥界と地上をつなぎました。
ここから出れば学校の屋上に出ることが出来ます」
闘夜はベッドから立ち上がった。
そしてゆっくりとそのドアに向かって歩き出す。
自分がドアに近づくたびに癒姫の表情は曇っていく。
仕方がない、と闘夜はため息をつき、癒姫を慰めることにした。