VS桃子-7
「……だって、お弁当もクッキーも私が作ったんじゃないんだもん」
石澤は面白くなさそうにため息をつきながら言った。
「へ? じゃあこれは……」
「お母さんが“土橋くんに持ってけ”だってさ」
めんどくさそうに言う石澤を尻目に、俺はおそるおそる弁当箱の蓋を開けた。
大きな弁当箱の中は、おかずを入れるスペースに、唐揚げやポテトサラダ、揚げ春巻、アスパラのベーコン巻、ミニトマトが彩りよく並んでいた。
だが、俺がまず目に入ったのは残り半分のご飯のスペースだった。
挽き肉と炒り卵の二色弁当は、卵のそぼろの部分が可愛らしいハート型に、残りは挽き肉でみっしり埋め尽くされていた。
まるで恋人に作ったかのような少し恥ずかしい弁当に思わず、
「……すげ」
と、自然に声が漏れた。
料理をしない俺でも、この弁当の気合いの入れようが伝わってきたが、娘の彼氏にハートはねえだろと、苦笑いになった。
「……どんだけ土橋くんのこと気に入ったんだかね」
ふう、とため息ついて石澤も弁当の包みを広げ始める。
石澤母の弁当と、石澤の不機嫌な顔を交互に見比べて、なんとなく合点がいった。
多分石澤は、自分の役割を母親に取られてむくれているのだろう。
そんなしょうもないヤキモチをやく彼女がなんだか可愛らしくて、
「お前、母ちゃんにまでヤキモチやいてんじゃねえよ」
と、からかいながら石澤の肩をポンと叩いた。
しかし彼女は少し顔を赤くして、
「ち、違うよ! ヤキモチなんかじゃないもん!」
と、俺を睨みつける。
「じゃあ、なんでそんな機嫌わりいんだよ」
俺がそう言うと、石澤は黙って自分の弁当箱を開けて俺に見せた。