夜中に目覚めて-2
えっ、ABC……のどこまでやれるかってことか?
「も……もちろん。BとかCなんかする積りはないよ。途中できっと駄目になる。
でも、お互い相手に特別な感情がないなら、感情抜きでやってみれば……」
うーーん、わかるぜ。お前の言いたいことは。
でもよ、こういうのは精神科の専門医とかとカウンセリングとかして解決して行くのが正道じゃないのか?
「じゃあ、松原はそうする積りかい? このままじゃ、絶対治らないと思うけど」
そうだな、俺はそんなの面倒くさいし、金もかかるからしないと思う。
というか結婚しなくたって構わないと思うんだ。まあ、諦めだよな。
「どうせ諦めるのなら、駄目元で実験してみないか。僕には松原しかいないんだよ。
松原にだって僕しかいないと思う。
こんな……条件にあった実験相手には二度と会えないと思うけど」
そうか、じゃあ、その……Aだけやってみるか。ま……待て。急に唇は駄目だ。
お互いの手にキスしてみるのはどうだろう。
それで鳥肌が立ったり、吐き気がしたら、それで中止しよう。
じゃあ、お前からやってみてくれ。えっ、俺からか? じゃあ、手を出せ。
手の甲の真中に軽く……どうだ? なんともないか。そうか、じゃあお前の番だ。
ふふふ……くすぐったい。だけど気持悪くならなかった。
えっ、今度は唇だって? 駄目だ駄目だ。頬っぺただ。慎重に行こう。
右と左の頬っぺたに1回ずつだ。吸ったら駄目だ。ただ軽く押し当てるだけだ。
俺からか? うわぁぁ……顔を近づけるから、ちょっと刺激が強いな。
どうだ? 俺はなんともなかったっていうか、気持ち悪くなかったが……。
「僕もちょっとどきどきしたけど、気持悪くならなかった。
じゃあ、今度僕がするよ。頬っぺたの肌がちょっと荒れてるね。
男でも肌の手入れしなきゃ駄目だよ。じゃあ、するよ」
う……これは感じる。でも気持悪い感じじゃなくて気持ちの良い感じだ。
だ……大丈夫だ。気持悪くならなかった。お前も平気だったか? そうか。
「今度は唇だけど、約束しよう。目を瞑らないって。僕からやってみる」
うわあ、いよいよかよ。ちょっちょっと待て。深呼吸する。
あのな……やっぱり唇同士のキスってのは、恋人同士の領域だと思うんだ。
今正直に言って、頬っぺたにキスしたときも、されたときもドキドキした。
それって、つまり恋愛感情って訳でないけれど、性欲と関係あると思うんだ。
俺たち男と女だろう?
やっぱり、間違いが起きてからじゃ取り返しがつかないことにならないか?
今なら引き返せるぞ。おや、怖い顔してどうしたんだ。
俺は男だからそれで構わないかもしれないけど、自分は違うって?
同じベッドに寝ただけでも物凄い決心をしたって?
そうか、うすうす感じてたけど、お前はこのことの為に俺を泊まらせたのか。
「だから僕に協力してくれよ。僕はもう引き返せないんだから」
じゃあ、こうしよう。キスしたら、結果がどうなろうとも友達関係をやめよう。
今夜限りで2人は絶交するんだ。秋野には2人が喧嘩したってことにしよう。
そしてこのことの秘密を守るんだ。秘密は墓場まで持って行く。それが誓えるか?
そうか。じゃあ、キスしてみるか。ま……待て。初めは短くしよう。1秒くらいだ。
忘れてた。これは俺のファーストキスだった。えっ、お前もそうか。
じゃあ、今回のはノーカウントにしよう。次回からがファーストだ。
それじゃあ、してくれ。目は閉じないんだな。うわぁぁ、鼻がぶつかる。
ちょっと顔を横に曲げてしてくれ。静かに歯がぶつかる。
うわぁ、なんだかわからなかった。だけどすごく動揺したぞ。唇が柔らかかった。
「僕もなんだか冷静さを失ったよ。でも、気持悪くならなかった。その逆だったよ」
おい、もうこれで良いんじゃないか? 俺がしても結果は同じだと思うんだ。
だって唇同士だから。おいおい、何怒ってるんだ?
えっ、お前にだけさせて、自分でしないのは卑怯だって?
わかったよ。じゃあ、するよ。だけど今度はもう少し長めにしてみよう。3秒くらいだ。
おい、こら目を閉じるな。目を開けてろ。こう首を傾げて鼻がぶつからないように。
柔らかい。暖かい。匂いも不快じゃない。か……感じて来た。
「もう3秒たったよ。いつまでやってるんだよ」
あっ、忘れてた。っていうかお前数えていたのか。ちょと早めじゃないか?
えっ、お前もなんともなかったか? 電気が流れたように体が痺れたって?
もうこれで十分だな。ちょっと春香には内緒だが、俺に体の変化が起きたから。
多分俺はもう女アレルギーは大丈夫だと思う。
というか、全ての女にアレルギーではないことが分かっただけでも大収穫だ。
さあ、これでもう良いだろう?
BとかCはしないってことだから、それはお互い恋人ができた時の為に取っておくさ。
これでお前に借りを返したことになったんだから、俺としてはラッキーだったよ。
「フレンチキス……」
えっ、お前、今なんて言った? まずいだろう。それ。