ある夏に吹いた風-4
逃げても、朝になってから帰ると、酔いから醒めたお父さんは了解していて怒らない
豚の蚊取り線香をお供に、台所から茹でトウモロコシを皿ごと失敬して、俺はそっと家を出た
行くあては適当だった
何となく海に行ってみた
砂浜は白い月明かりが夜の濃紺を薄め青白く照らされ、風は穏やかだった
砂浜から顔を出す岩に皿と豚を置き、腰を掛ける
ここの海岸の岩は岩肌がすべすべしていて、座り心地がよい
海を見つめると誰かが泳いでいた
誰かが俺に手を振る
本気でお化けを信じる俺は背筋が凍る
が、よく見るとカスミさんだった
カスミさんは海から上がり俺に近づいてきた
「よ!どうしたの?こんな夜中に」
俺はドキマギする
カスミさんは丸裸で泳いでいて、そのままこっちに来たのだ
ランニングシャツと、そこから覗くブラジャーの肩紐。そしてGパンの跡の日焼けと白い肌のコントラストが、夜目にも栄える
アグラをかいていた俺は、勃起を隠すために体育座りをする
その動きは、カスミさんは何か拗ねているように見えたのか、「な〜に?親子喧嘩でもしたの?」と、お姉さん口調で聞いてくる
俺は理由を話すとカスミさんは笑って、避難した俺をほめて、濡れた手でクシャクシャと撫でてきた
なぜ褒められているのか分からないが、カスミさんに褒められると何となくうれしかった
カスミさんは俺の横に座ると、勝手にトウモロコシを取り、齧り始めた
「最近ウチに来ないけど、どうしたの?」
あんなものを見ては、今までのように気軽に遊びに行くことはとても出来なかった
「カスミさん…」
「ん?」カスミさんはトウモロコシを頬張り、間抜けな声で聞き返してきた
「カスミ…さん…」勇気を持って聞こうとしたが、そこから先の言葉が思いつかなかった
「お兄さんとのこと?」
カスミさんの言葉に俺の体がビクリと跳ねる
言葉に詰まる俺
オーバーヒート寸前の頭にピィ〜ンと俺にしか聞こえない音を立てる耳鳴りと波音とカスミさんのトウモロコシを齧る音が駆け巡る
「お金が無いからね。体で稼いでるんだ。食べ物を体でね」