heel-13
やべえ、阿部さんめちゃくちゃ可愛いじゃん。
大人しいタイプだからスルーしていたけど、顔の作りは結構整ってるし、恥ずかしがる表情がさらにその可愛さに拍車をかけている。
まったく、桝谷もなかなか目の付け所がいいじゃねえか。
俺は桝谷の先見の明に内心舌を巻いていた。
何より俺の冗談を真に受ける素直さがいい。
可愛くて性格もよさげで、なおかつ桝谷を好きみたいだし、このままうまく行けば、アイツの残りの高校生活は薔薇色だろう。
ちくしょう、羨ましいな。
チラチラ横目で阿部さんを観察してみる。
可愛いし、清楚だし、ちっちゃくて抱き締めたくなるし。
よく見りゃ実は、胸だって結構あるし。
密かに彼女の胸元に目線を移動させた途端、身体が強張った。
ブラウスのボタンとボタンの間から、チラリと覗く白いブラ。
濃紺のチェックのスカートからニョキッと顔を出した真っ直ぐで滑らかそうな細い脚。
「…………」
思わず生唾が込み上げて、小さく喉を鳴らす。
そして、さっき心の中で思っていた言葉が再びよぎる。
多分、俺はこの先誰かを好きになっても受け入れても らえないような気がする。
だったら、俺は――。
「阿部さん」
俺はニッコリ笑って横に立つ彼女の顔を見上げた。
「ん?」
「桝谷って単純バカに見えるけど結構女の好みにうるさいんだ。いいなって思う娘でも、ちょっとでも幻滅しちゃうと、すぐ嫌いになっちゃうの」
「え……」
途端に不安で顔が曇る阿部さん。
そんな彼女の肩を優しく叩いて、俺は邪気のない笑顔を作る。
「だったらさ、今日の放課後、もしよかったら俺と桝谷対策しない?」
「桝谷くん対策……?」
キョトンと首を傾げる彼女に向かって、さらに続ける。
「俺は一応アイツの親友だからさ、どういうのがタイプだとか、好きな女の子のファッションとか全部知ってんだ。だから、そういうの全部教えてやるから、デート対策練ろうぜ」
「ホント!?」
みるみるうちに顔が明るくなっていく阿部さん。その笑顔が雅とダブる。
「作戦実行すれば、桝谷のハートもゲットできるからな」
「う、うん、頑張る!」
「あー、でも二人で話してる所、桝谷に見られて誤解されたくないだろ? そうだ、放課後4階の美術室に来てよ。あそこなら誰も来ないからじっくり作戦会議できるぜ」
「うん、ありがとう風吹くん!」
「じゃあ、放課後」
そう言って阿部さんに手をヒラヒラ振ると、彼女は満面の笑みで頭を下げてから教室を出て行った。
邪気のない笑顔を崩さない俺は、爽やかな笑顔で女を虜にしてきた兄貴と変わらないくらい完璧に演じられただろう。
そしてその笑顔のまま、さっきの言葉の続きを胸に浮かべた。
――だったら、俺はヒールになってやる。
ふと顔を上げれば、小さくなっていく親友の愛する女の細い背中。
桝谷の大好きな阿部さんの後ろ姿を見送りながら、俺は邪気のない笑顔を少しだけ崩してニヤリと笑った。
完