縄灯(前編)-12
からだの隅々の肌に縄の文様を刻まれながらも、私は苦痛に耐えるというよりも、その苦痛を
甘美でありながら身悶えするような性の渇望に変えてくれるキジマの瞳に酔っていた。
彼は冷酷な薄笑いを浮かべ、私の乱れた髪の毛を鷲づかみにすると、うなだれた顔をもたげさ
せるようにして言った。
「…もっと、もっと、からだの底からもがくんだ…ほら、鬼を感じるだろう…」
キジマの視線は陰部の源からやがてからだ全体に広がり、肌の内側から肉欲の欠片を少しずつ
えぐり取りながら、私の中の鬼を見ようとしていた…。それは、情欲に溶けた猛々しい獣のよ
うな私の中の鬼だったのだ。
吊られた体を悶えさせるほどに、私を縛った縄は捩れながら徐々に強く肌を緊めあげていく。
ギシギシと縄が軋み、さらに強く引き締まる縄が私の肌肉を噛み千切るように捩りあげていく
のだ。
欲しかった…私はキジマに縛られることをあのときからずっと欲し続けていたのかもしれない。
キジマに縛られることで私の性がふたたび瑞々しい艶めきを持ち始めていく。掻きむしりたく
なるような欲情の動悸が高まり、やがて恍惚とした甘美感が子宮の奥にまぶされながら熔け、
ぬかるんでいく。
肌に絡みつく縄が咆哮めいた呻き声をあげると、奈落の底に澱む私の鬼の叫び声がその呻き声
に共鳴しながら響きわたる。
閉ざされた淫芯の血流は毒々しく脈打ち、子宮は血みどろになって悶絶しようとしている…。
やがて私の子宮に溶けた鉛のような澱みが固まり始め、鬼の輪郭を描きはじめると、断末魔の
呻きとともに私は歯を噛み鳴らし、白い咽喉をすっと掻き切る剃刀のような縄緊めに烈しく
呪縛されるのだった。
…あっ…あうーっ…
じわじわと押し寄せてくる縄が緊めあげる肉の苦痛と極彩色の悦び…
それはやがて鬼のせせら笑いとなって私の淫窟で木霊のように響きわたり、鬼が放った炎が
肉襞を灼け焦がし、めらめらと煮えたぎる炎の渦となってうねり始める。
肉肌に無数の蟻が擦り込まれていくような緊縛の苦痛…それはもう私の苦痛ではなく、鬼の
傀儡となった私の肉の悦楽そのものだったのだ…。