序章・二人だけの秘密部屋 第2章・山小屋のコテージ 第3章・透明な壁 最終章・快楽の果て-3
第3章 透明な壁
レトロなコテージのリビングに僕と果歩は二人きりになった。
月明かりが窓から部屋に差し込んでいる。
いつの間にか、僕の目は暗さにも慣れ、懐中電灯がなくてもある程度動き回る事ができる。
果歩は無言でこっちを見ていた。
清楚な白いワンピース、下はフリル付きのスカート。僕は立ち上がってゆっくり彼女に近付いた。
その時である、彼女を目前にして足が前に踏み出せなくなった。
(金縛? いや違う )
何か透明のバリアのような壁が僕の行く手を阻んでいた。
いくら踏ん張って前進を試みても、それ以上進む事は出来ないし、拳で見えない壁を叩いてもびくともしない。
その時、果歩も立ち上がり僕の方へ近付いた。しかし同じように前に進めなかった。
彼女はこっちを見て微笑んだ。黒髪が肩までかかり、目がぱっちりした童顔で色白。写真よりも断然かわいい。
そして蚊の鳴くような声でかすかに話出した。
「やっと会えましたね。もうこのまま会えずに終わってしまうのかと思いました」
「この秘密部屋は二人しか入れない場所。絶対にここで会えると思っていたよ」
「うん、亮さんに会えて良かった。でも写真で見るよりもずっといいですね」
「果歩も、本当に27歳?どう見ても20歳くらいに見えるよ」
「そんなことないですよ…。 でもこの透明の仕切りは何なのですか?私の声はちゃんと聞こえてますか?」
「勿論聞こえるよ。でも果歩を目の前にしてこれ以上近付けないって何か寂しいよ」
「私も…」
「ところで、私は亮さんの官能小説大好き。携帯から読めるので今から朗読会しませんか?」
「えっ、本気(マジ)?ちょっと待って」
僕はリュックを置いてある場所に戻り、中から小冊子を持って来た。
最近は小説をネットで公開した後は、自作で小冊子を作り編集するのが趣味みたいになっていた。
「果歩から読んで、小説は自分で決めていいよ」
「じゃあ、どれにしようかな。よし決めた。『水中淫逸の果て』がいいや」 果歩の声のトーンが上がった。
「基本ワンセンテンス交代で、会話部分は、男のパートを僕が読むから、女子のパートは果歩に読んでもらおうか。じゃあ15ページ目の部分からスタート」
僕たちは透明のバリア越しギリギリまで近づいた。その位置まで接近しないと僕が手にしている小冊子の文字が果歩から見えない。
僕はリュックの上に懐中電灯を置き小説の文字を照らし出す。
果歩「7月下旬には二人で山梨県清里へ旅行に行くことになった」
亮「その晩はオシャレな洋風のリゾートホテルで、二人は愛慾に恣に染まってしまった」
果歩「温水プールがあることは知っていたので、僕は水色に黄色のストライプが目立つ派 手なトランクスタイプの水着をその日のために買って持ってきた。一方紗江子は、水着は持って来ていなかった」
亮 「じゃ僕が一人で入りに行くよと少し拗ねた子供のような態度を取ってしまった」
果歩 「待って。じゃあ、私はプールサイドで見ているねという紗江子の笑顔に、僕の機嫌も取り敢えずはおさまった」
亮「そして、プールサイドに上がり白いベンチに腰掛けている紗江子の隣に座った」
果歩「白のTシャツに、淡いグレーのショートパンツと言った見慣れない格好に、何とも言えない色っぽさと新鮮さを感じ、僕は欲情してしまった」
亮「思わず接近してお尻を付けた。彼女も反応してこっちに、ぴったりと密着してきた」
果歩「…」
「うっ、あはははっ… 何か照れちゃう」
「真剣に、もっと臨場感を込めて読みなさい。朗読だよ」
「はい、亮先生」
僕は次第に興奮が高まってきた。
だが、依然として透明な壁は二人を隔てたままだ。