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ROW and ROW
【その他 官能小説】

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ROW and ROW-7

 島岡は『智子』を椅子に座らせて、買ってきた弁当を置いた。
風呂を沸かしている間、差し向かいでビールを飲む。
(智子はすぐに赤くなったな…。でも、いつもコップ一杯はつきあってくれた…)
 箸を割って並べると『智子』が微笑んだように見えた。
「先に食べていいよ」
(お先に…)  
晩酌をしている彼に必ずそう言ったものだ。人形は何も言わず、箸も持たない。

 ブザーが鳴って風呂が沸いたが『智子』は」一人で入れない。
「一緒に入ろう。入れてあげる」
やさしく抱きかかえて脱衣所に立てかけて服をぬがせる。ボタンを外す指が震えるほど昂ぶってくる。
 寄り添って湯船に沈んだ時の昂奮は自分でも異様に感じた。
(智子…)
体をまさぐりながら耳に口づける。ボディが温まってくると人肌と錯覚してしまいそうな感触である。
 一方的な愛撫に沒頭した。後ろから乳房を揉み上げ、項に唇を這わせ、向い合うと座位の形でペニスを押し当てる。島岡は体内の激しい血流を感じて夢中になった。

 「さあ、出ようか」
手足を曲げながら直立させる。防水加工がされているので若肌のようにお湯を弾く。
 脇の下や股間、尻の谷間もタオルで丁寧に拭った。
(きれいだよ、智子…)
横抱きにしてベッドに運んで寝かせた。
 風呂に入る前はそこでビールを飲みながら視覚で愉しむつもりでいたのだが、湯船の高まりが治まらなかった。それに、
(温もりのあるうちに…)
仰向けの『智子』の乳房に顔を押しつけた。
(智子…)
自制が利かなくなった。
(ひとつになろう、智子…)
股間節を慎重に曲げる。手ごたえのある動きで開脚した。さらに膝を折るとその体勢が固定された。尻のライン、太もも、見事な理想形である。
 陰毛の下に装着したホールが見える。割れ目の色具合はいかにも人工的だが、昂奮していると却って淫らに感じる。
「いくよ、智子」
ローションを塗って、先端を潜らせ、体重をかけた。引きつけながら一気に押し込む。生身の柔らかさはない代わりに圧迫感が強い。それは奥まで一定で、コリコリとペニスを刺激した。
 前のめりになって乳房を揉みながら抜き差しに入った。
「ううむ…」
内部の小さな突起がペニスをあちこちからくすぐってくる。島岡は『智子』の顔を見つめながら快感の波に攫われていった。
(イクよ、智子)
「ああ!…」
久しぶりの突きあげてくる感覚に翻弄された。自慰では得られなくなった痙攣と快感の余韻が体の力を抜き取っていく。
(いい…しかし…)
醒めてみると微かなゴム臭が気になった。委縮したペニスが呆気なく抜け落ちる。シリコンのホールは弛緩しない。簡単に弾き出されてしまうのだ。
 パーツを外して洗いながら溜息が出た。


 それから何度か『智子』を抱いて、心に隙間を感じるようになった。
人形の『智子』は、プロポーションは言うに及ばず、肌触り、肉体バランス、すべて見事なできばえである。男が求め、そそる要素を余すことなく盛り込んだ傑作といっていい。しかし、人形なのである。美しくても人形なのだった。
(反応がない…)
言葉も表情も均整のとれた肉体も、何もこたえてはくれない。『智子』と睦み合うには思い描いたストーリーに埋沒していくしかないのだが、事後の虚しさは、人形という物体が目の前に横たわっているだけに自慰よりも深く残る気がした。
 そんなことは分かっていたはずだった。想念の世界で智子と戯れたい。それが出来ればいいと思っていた。だが、空想は自由で無限のようでありながら、セックスを前提とした創作が加わると話は広がってはいかないものである。
 『妻』が絡んでくれないもどかしさがあって、それでも昂奮してくるといつか人形に排泄していた。求める肉欲と智子の面影がなかなかうまく合致しないのだった。終わってみると心の重さを感じていた。
 心の隙間を埋る目的だった『智子』。人形にのめり込んだことで却って満たされない生活になってしまった。


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