VS歩仁内-2
「……何だ、来んなよ」
振り返ってジロッと歩仁内を見やるが、奴は怯むことなく、小動物みたいな黒目がちな瞳をくりくりさせて、
「何だよ、相変わらずおれに冷たいよね」
と、沙織に同意を求めるように笑いかけた。
「あのね、歩仁内くん。今日、桃子が風邪で学校休んでるからみんなでお見舞い行こうって話してたんだけど……」
“余計なこと言うな”と、沙織に釘をさすつもりで再び彼女をジロッと見るも、サラリと無視される。
「へえ、いいねえ。おれも行きたい!」
歩仁内はポンポンと俺の肩を叩いて、顔を覗き込んでくる。
まったく、コイツは俺のペースを乱してばっかりだ。
これ見よがしに大きいため息をついてやるが、歩仁内までもが俺を無視して、沙織と楽しそうに話を進めていた。
以前、石澤が歩仁内のことを好きだと言ってからは、コイツの存在がやたら鼻について仕方なかった。
まあ結局はそれも石澤の嘘で、歩仁内も歩仁内でしっかり他の女と付き合っていたから、二人の間には何もないってわかっちゃいるんだけど。
俺は、沙織と楽しそうに話している歩仁内の横顔をチラッと見上げた。
歩仁内は、何事もそつなくこなし、人当たりもよくて、機転が利く、一言で言えば“スマートな男”である。
そんな歩仁内が、絶縁状態だった俺と石澤の間に一石を投じたことで、少しずつ流れが変わったのは事実だし、多分コイツがいなかったら俺は自分の気持ちに気づかなかったままのはずだ。
本来なら感謝してもいいはずなのだが、石澤を好きな振りして俺を煽るという作戦が、“とんだ食わせ者”と言うイメージを植え付けてしまい、歩仁内に対して未だに警戒心を持ってしまっている。
その結果、俺は歩仁内に対して未だ素直になれずに、素っ気ない態度をとってばかりいたのだった。