〈冷笑〉-8
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昨夜の山中での事件など知らぬ瑠璃子は、今日のこれからを想い浮足立っていた。
今日は一日休みであり、八代もまた同様。
二人の“関係”を進める為に、八代と会う日だ。
春奈は今日は勤務なので既に出掛けており、今は一人だ。
(スカートは、ちょっとやり過ぎかな?)
瑠璃子はデニムのショートパンツを穿き、白いキャミソールに白いYシャツを羽織った。
そして鮮やかなピンク色のグロスを唇に引き、髪はヘアースプレーでカールを当てた。
あどけなさと大人っぽさを合わせたルックスは魅力的で、美しい太股を惜し気もなく晒すなど自分の売りをよく理解している。
間もなく携帯電話は鳴り、八代の声が聞こえた。
瑠璃子は白いシューズを履き、玄関から飛び出した。空は高く抜け、真っ青に晴れている。
それは今の瑠璃子の心と同じくらいの快晴であった。
『どうしたんだい、別人みたいじゃないか?』
驚きの表情で迎えてくれた八代に瑠璃子は喜びながら、急いで助手席に乗り込んだ。
『俺さ、服とか分からないからスーツで来ちゃったよ』
いつも通りのスーツ姿の八代は、少し恥ずかしそうに顔を崩した。
そして左腕を伸ばすと、緩やかなカーブを描く髪に触れた。
『髪型変えると印象も違うね。大人っぽく見えるよ』
「あ、ありがとう……」
ポッと頬を赤らめ、瑠璃子は頷いた。
更に八代はキャミソールにまで手を伸ばし、既に手中に堕ちた身体に触れた。
「肩紐見えると恥ずかしいから……チューブブラにしたの……走ったりしたら揺れちゃうかも……」
肉体関係を何度も結んだ間柄では、少しは大胆な台詞も飛び出すもの。
笑顔の奥にある軽蔑を気付きもせず、瑠璃子ははにかんだまま……車は街を抜けて、あの海へと向かっていった。
「……え?八代さん、海が見たいの?」
ようやく車が海に向かっていると気付いたが、八代は構わずアクセルを踏み込む。
人影も殆ど無い港に黒い塊が伸びている……あの貨物船だ……。