消えた気配W-1
四人の神官が地上に到着する前、葵は偽りの神官たちに囲まれて秀悠の家をあとにしていた。
「あの方・・・いえ、あの人が満足するまでもう少しお待ちいただけますか?」
「・・・あの人?」
訝しげに偽の神官を見つめる葵に、男は微笑んでいる。言われたままに歩き出した葵に上機嫌な様子で話し出す。
「私はずっと、ずっと・・・
貴方にお会いすることを夢に見ていました」
「・・・私に?」
うっとりした眼差しで見つめられ、葵は居心悪そうに顔をあげた。
「私の父は鉱山を持っていました。幼少の頃遊びに訪れたとき、私はひとりの働き手の男と顔見知りになりました。そして・・・知り合ってだいぶたったとき、素敵な女神をモチーフにした石を見せてくれたんです」
「女神様、ですか・・・」
「はい、瞬く間に心を奪われた私は・・・その働き手に話を聞こうと熱心に鉱山へと通いました。通い始めて数ヶ月が経過したとき、鉱山内で事故が起きたんです。」
「・・・・」
黙って話を聞く葵の手を握りしめ、男は興奮したように目を輝かせた。
「崩落事故・・・・その規模は恐ろしいほどに広く、中にいた働き手の生存は絶望的だと言われていました。もちろん、いつか女神のために・・・と、石を探しに入っていた私も中にいました」
「・・・・っ」
その時はじめて、心を痛めた葵は偽の神官を心配するような目でその手を握り返した。
「・・・貴方にも、皆さんにもお怪我はありませんでしたか?」
眉を下げる葵を見た神官は、穏やかな瞳で葵をゆっくり抱きしめた。
「えぇ、彼のもつ女神の石が光輝き・・・強力な光の結界が皆を守ってくださいました。・・・その光景が私の女神に対する想いを強くしたんです」
「調べて行くうちに、その女神が実在していることがわかりました。正しくは女神ではなく、この世界の唯一無二の王だということも・・・」
「どうしても王に逢いたい、私の心をとらえて離さないこの少女に逢いたいと、私は貴方の姿を追いかけました。その昔、東条という男の前に現れたという記録も見つけましたよ」
東条、神官である九条の前世・・・魂の融合を果たした彼の前の姿でもある。
「明日、この町を発ちましょう」