消えた気配V-1
「まさか・・・ゼン殿の世界へ・・・・」
すると、音もなく九条が姿を現した。
「・・・何よりもこの世界を愛している葵がそんなことをすると思うか?」
「九条・・・」
「二度と会いたくはありませんでしたが、秀悠さんと曄子さんを探したほうが早そうですね」
九条の背後から姿を現した仙水は、二人の名を口にすると・・・その瞳は冷たく温度を下げた。
(仙水のやつ根に持ってやがるな・・・・)
仙水に二人を探させるのは危険だと判断した蒼牙は、自ら名乗り出た。
「その役は俺と大和で十分だ。九条、仙水・・・あんたら相当ヤバイ目付きしてやがるぜ」
「民を傷つけること、私怨をもつことは神官にはあってはならないことだ。葵を探し出して王宮に連れて帰ることが今回の目的だからな」
頷いた大和は蒼牙とともに町の中心へと走っていく。夜も深まったというのに、いまだに一際明るく火のともっている建物を目指して・・・。
「秀悠さんの家はここのはずですが、気配が感じられません。近くにはいないようです」
仙水が周囲を見渡すと、葵や神官たちの"それ"がどれだけずば抜けているかわかる。民たちの気配はどれも小さく、ひとりひとりを区別することも困難だった。その距離は離れるほど難しく、目立つのは走っていった大和や蒼牙の気配ばかりだった。
――――・・・・
仙水と九条が歩き出したころ、大和と蒼牙は賑わっている大きな建物の前に辿りついていた。
「もう真夜中だってのに・・・
この町は遅くまで起きてるやつが多いんだな」
そのまま突き進もうとする蒼牙の後ろで、大和が慌てた。
「・・・待て蒼牙、こんなところに葵がいると思ってるのか?」
大和の問いかけに振り返った蒼牙は・・・
「目撃者がいるかもしれねぇだろ?人の記憶ってのは時間が経つにつれて曖昧になるからな。急ぐぞ」
身軽に建物内へと侵入した二人は、ここで初めて偽王を目にすることとなる。