異世界の王T-1
―――その頃、夜も深まった異世界の大国のひとつ、悠久の国の城ではゼンを待つ王たちの姿があった。
「・・・いったいゼンは何をしている」
手元にあるグラスを傾けながら美しい銀髪をかきあげたのは【悠久の王・ディスタ】だった。彼は齢、七百年を超える美しく偉大な王である。
そしてキュリオの数代前の王で、この世代の王のリーダー的存在だ。
さらに彼の後方、小高い窓辺から空を眺めているのは・・・どこか浮世離れした雰囲気をもち、エクシスと似た翡翠色の瞳と、儚い美しさを漂わせた王がいる。名を【精霊王・ヴァイス】。彼は即位してから四百年になるという。
ヴァイスは視線を夜空に向けたまま、声ではないような・・・言葉を発した。
『・・・雷の国の王は・・・
何かを見つけたのだろうか・・・?』
長い睫毛を伏せていたディスタは後方にいる精霊王へと目を向けた。
「噂には聞いている。
それがどんなものなのか、直接聞いてみたいものだな」
『・・・あぁ』
彼らの話し声を聞いていた漆黒の髪と、真紅の瞳をもつ一人の男がテラスから室内へと戻ってきた。
「あいつ、女が出来たんだろう?」
風になびく漆黒の髪と、血の色のように紅い唇が妙に色っぽさを醸し出している。妖艶な色香をまとうこの男は、五百年を超える【吸血鬼の王・グロリア】だ。
「直接聞いたわけではない。臆測で話すものではないぞ」
ディスタのその言葉に、グロリアは肩をすくめた。
「ったく・・・面白味のないやつだぜ」
やれやれ、というようにワイングラスに口をつけるグロリア。と、その時、重厚な扉が音をたてて開いた。
三人の王の視線がいっきに集まる。
「・・・ゼンはまだだよ」
そう言って入ってきたのは【冥界の王・ダーク】だ。まるで三人の会話が聞こえていたかのように言葉を返す。
「君たちも気になる?異世界の話」
すでにゼンから話を聞いていたダークは、もったいぶったように三人の王の顔を見比べている。