本文-6
夢の時間の終焉は、實松クンの悲鳴とともにやってきた。
「礼子さん、起きて!」
「どうしたの?」
「時計を見てください!あーもう、参ったな。これじゃ間に合わないかも…」
どうやら、寝とぼけて目覚ましを止めちゃったみたい。焦る彼には悪いけど、おかげでよく眠れた。吐息に手を当てて確かめてみる。オッケー、どうやらアルコールは全部抜けてるみたいね。
「そうだ!礼子さん、運転できましたよね?確か」
「出来るけど…どうして?」
「僕はここからタクシー拾って事務所に向かうんで、並木と佐久間を拾いに行ってくれませんか?」
住所は既にカーナビに登録してあります、と慌ててスラックスに脚を押し込みながら實松クンは続けた。そういえば、ここに来る時も道を尋ねられなかったっけ。
「いいわよ。その代わり、お願い聞いてくれる?」
「時間がかからないものなら…」
「ちゃんとキスして。恋人にするみたいに」
裸のまま、スーツの上着が途中で引っかかっている實松クンの肩に手を廻して目を閉じると、下唇を甘く挟む感触が伝わってきた。
「んん…っ」
唇を緩め、舌を突き出すと實松クンの唇が優しく愛撫する。私の腰に手を廻して、しっかりと抱き寄せてからたっぷり10秒。それ以上かも。こんなにウットリできるキスが出来る子だったのね、プロデューサー。見直したわ。
「最後バタバタで申し訳ないんですけど、タイムリミットなんで…」
離れ際には、私のおでこに小さくキスをしてくれた。慌しくドアの向こうへと消えた實松クンが残していった車のキーを指先でつまみ上げ、キーホルダーへそっと囁く。
「合格よ、プロデューサーさん」