想いの行方-6
やっぱり校舎内は誰もいなくて、俺が上履きを引き摺る音だけがやけに響く。
残っている先生達だって、職員室で仕事をしているだけだから、わざわざこんな校舎の外れにやってくることはない。
そのせいか、こんなにも閑散した廊下がやけに不気味で、急に昔テレビで観た廃校の心霊現象に迫るなんて特番を思い出して背筋に悪寒が走った。
兄貴の奴、こんな薄気味悪いとこでよく一人でいられるよなあ。
長々と続く廊下の先を見ても、振り返っても、誰もいない。
そんな寂しい空間から逃れるように、突き当たりにある美術室の引き戸を目指して足を早めた。
白い引き戸からのぞく美術室内は、相変わらず西日が差しているけれど、 さっきよりもずっと日は傾いていたのか薄暗く感じた。
お化けでも出てきそうなそんな状況に、兄貴を驚かせてやろうかといういたずら心がふと芽生えてきた。
眠る兄貴の横にそっと立っていきなり大声で起こしてやれば、一体どんな顔をするだろうか？
悲鳴をあげる兄貴の姿を想像しながら、俺は引き戸をそっと開けた――。
「ああっ……、もういやあ……！ ああん！」
それを５センチほど開けた所で手が止まる。
一瞬自分の耳を疑ったが、高くて艶っぽいその声は、間違いなく女がセックスする時に漏らす淫らな声だった。
「ああん……っ！ あっ、あっ、いやあ……」
部屋中に響くその声に、ゴクリと生唾が嚥下される。
そして自然と脳裏に浮かぶのは兄貴が女を抱く姿。
兄貴の奴、女なんて相手にしてなかったのにヤってんのかよ……。
「あうっ……、あ……だ、だめ……許して……」
まさに取り込み中とも言える事態、俺は気を利かせてここから立ち去るべきだってのはわかってる。
しかし。
色っぽい声に、すかさず反応し始める下半身。
最近はオナニーばっかりだったから、生の女の喘ぎ声に身体が疼いて、俺はその場に立ち尽くした。
さっきまでは誰もいない校舎にビビりまくっていたくせに、その恐怖心はいつの間にか微塵もなくなって、ひたすらに女の喘ぎ声に耳を澄ます俺は、立ち尽くすことしか出来なかった。