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【教師 官能小説】

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想いの行方-5

人っ子一人いない昇降口に来て、上履きから磨り減ったスニーカーに手を伸ばした時、ふとあることを思い出した。


母さん、夜勤って言ってたっけ。


鍵を取り出そうとカバンの中の備え付けの小さなポケットに手を伸ばすが、触り慣れた硬い感触のそれは、そこになかった。


またしてもため息が出てくる。


告白して、うまくいくもんだと思ってた俺は、そのまま雅とどこかで茶でもするつもりだったから、兄貴に鍵を預けていたのだ。


皮算用もいいとこで、自分のアホさ加減に笑いしか出てこない。


でも、もう誰もいない校舎。兄貴だってさすがに帰っているだろう。


スニーカーを取り出そうとしていた俺は、まずその前に三年生の下足棚の方に向かって、兄貴が帰っているかを確認することにした。


……しかし。


「あれ、まだ靴がある」


俺のオンボロスニーカーとは違って、まだあまり傷のついていない兄貴のローファーが、差し込む西日に照されて黒光りしていた。


こんな時間なのに、なんでまだ学校に残ってんだ……?


頭に疑問符が浮かぶけど、すぐにそれは消え失せる。


代わりに浮かぶのは、美術室でイビキをかいて眠る兄貴の姿。


無駄に広い美術室は、幅が7、8メートル程もあるパーティション代わりの大きな棚が、後方にデンと鎮座していて、その後ろには画板やらイーゼルやら、無造作に押し込まれている、ちょっとした物置みたいな空間になっている。


さらには誰が置いたのか、革製の黒い一人がけのソファーまで置いてあり、兄貴はそこで惰眠を貪るのが大好きなのだ。


もしそうなら、寝過ごしてこんな時間まで学校に残っているのも頷ける。


「ったく、めんどくせえなあ」


そう一人ごちれば自然と苦笑いが漏れてくる。


けれどこのまま一人で帰らずに済むと思うと、正直ホッとした所もある。


想いを伝えることが出来なかった後悔を、誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。


たまには兄弟で一緒に帰るのも悪くない。なんなら夕飯にラーメンでも食いに行って、今日の不完全燃焼の想いをぶちまけてしまおう。


兄貴なら、茶化したりしないで真面目に話を聞いてくれる。


そう思いながら、俺は来た道を再び戻ることにした。








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