想いの行方-4
◇
息を切らして再び教室に戻ると、すでに人の姿なんてとうになく、がらんどうの空間になっていた。
ほんの少し傾きかけた日差しが教室内をオレンジ色に染めている。
それを見ながら俺は、盛大なため息をついた。
元々頭の悪い俺だけど、決して最下位の方ではない。でも、やたらと教師に目をつけられるのは、他でもない、俺が風吹徹平の弟だからであり。
寺久保に捕獲されて無理矢理に行われた個人授業でも、「お前の兄貴はあんなに出来がいいのにな」と、散々悪態を吐かれながら長々とプリントをやらせられた。
多分俺が兄貴の弟じゃなかったら、寺久保に捕まらずに済んだのに。
今までは兄貴のおかげで女とヤりまくることが出来たくせに、本命の女に想いを告げるチャンスを兄貴のせいにしてしまった俺は、八つ当たり気味に近くにあった机を蹴飛ばした。
その弾みで、椅子の背もたれがスローモーションのように床へと落ちていく。
そして、ガシャンと椅子が倒れた音だけが静かな教室内に響いた。
壁に掛けられた時計を見れば、すでに5時半をまわっていたところ。
屋外で行われていた運動部の奴等ですら学校を後にしていたらしく耳が痛くなる程の静寂の中で、ポツリと呟く。
「くそ、こんな時間じゃ帰っちまったかな」
舌打ちを漏らしながら、手にしたアルバムを睨み付ける。
寺久保と行ったマンツーマンの授業は、生徒指導室で行われていたから、その間に雅が帰っていたらもうアウトなのだ。
シンと静まり返った校舎。外から聞こえる家路に急ぐ学生達の賑やかな声が微かに聞こえる。
一人取り残された空間に、絶望だけが残る。
やっぱり俺が告白なんて、土台無理な話だったんだろうか。
一端物事を悪い方向に考えると、雪崩のようにネガティブな思いに飲み込まれそうになる。
教育実習生とは言え、雅は生徒を指導する立場であるほど大人で、かたや俺は猪突猛進のごとく一方向しか見えていないクソガキ。
共通点が少しあっただけで舞い上がるバカが告白したところで、一笑に附される、そんな気がしてきた。
だから寺久保に捕まったのだってきっと、「お前なんかが告ったって撃沈するに決まってんだろ」という見えない力が働いてのことだったかもしれないのだ。
のしかかる重い気持ちに、ガックリと背中が丸まる。
「……帰ろ」
俺は、カバンを小脇に抱えながら黒い色したCDジャケットを見つめながら、教室を出た。