囚われの王V-1
「曄子、と言いましたか・・・
どうやら貴方がたをよく知っているような口ぶりでしたので・・・こちらの切り札として身柄を確保させていただきました」
「なぜ曄子さんのことを・・・」
動揺の隠せない葵の傍らで、秀悠が悔しそうに歯を食いしばっていた。
「申し訳ありません葵さん・・・
町で彼らを迎い入れたあと、曄子さんが大声で彼らは偽者だと叫んでしまったのです」
「・・・それで目を付けられたということですか」
小さく頷き、肩を落とす秀悠を慰めるように葵は彼の背に手をあてた。
「謝るのは私です。
秀悠にも曄子さんにもご迷惑をかけてしまって・・・・本当に申し訳ありませんでした」
「そんな、葵さんは悪くないのに・・・っ!!」
必死に葵に訴えかける秀悠は嫌な予感を胸に、葵の手を握りしめた。
「言いなりになってはいけませんっ!!!!葵さん!!!このまま王宮に戻りくださいっっ!!!」
「・・・ありがとう秀悠」
ポゥっと葵の手のひらに光が灯り、葵の羽のひとつが秀悠の体に溶け込んだ。
「葵さん・・・?なにを・・・・」
秀悠の体が光に満ちて・・・
その瞳から葵の姿がどんどん霞んでいく。
握っていた葵の手の温もりが徐々に消えてゆき・・・秀悠の体は完全のその場から消え去っていった。
「実に素晴らしい・・・」
恍惚とした表情で神官たちはその光景を見守っていた。
「慈悲深き、真の陛下は・・・
心から民を愛していらっしゃるのですね」
ゆっくりと葵に歩み寄った神官は、葵へと手を差し伸べて上機嫌な笑みを口元に浮かべていた。
「さぁ参りましょう・・・私の陛下」
「・・・・・」
葵は差し出された神官の手を無視して立ちあがった。数人の別の神官が葵を取り囲むように立ち、歩き出した。
ゼンとの約束を守れなかった秀悠は、葵の力によって遠く離れた安全な場所まで移動していた。彼が目を覚ますのは葵がこの場を去ったあとのことである。