kiss-3
「どうしたの?」
彼の表情が、ほんの一瞬強張った。彼の視線をたどると、わたしの胸にあるキスマークにぶつかった。もうかなり薄れて、よっぽど目を凝らさないとわからないくらいのものだった。一週間ほど前に帰省した時、祐介さんがつけたものだ。和成先生はそれを指で一度なぞると、すぐに舌で舐め始めた。
「ん……くすぐったい」
まるで犬が傷口か何かを舐める時のように、何度も何度も舐めてくる。ここだけ穴が空いてしまうのではないかと思うくらい。あんまり執拗に舐めるので、少し不安になった。
「先生、怒ってるの?」
「ううん、消毒」
そう言ったかと思うと、今度は首に痛いほど吸いついた。ちくん、とした痛みが走る。
「ああ、綺麗についたよ。君は色が白いから、赤が似合うね。今度、赤いワンピースか何かをプレゼントしたいよ」
そう言ってぎゅうっと抱きしめられた。垣間見える、嫉妬と独占欲。
祐介さんは、わたしが地元を離れた今でも、見えるところにキスマークをつけてはくれなかった。他の誰でもなく、わたしが祐介さんの一番だという証がほしかった。彼の奥さんに見せつけることはできなくても、すれ違う人でも、大学の友人でも、誰でもいいから、その証を見せつけたかった。揺るがないわたしの立場や、自信がほしかった。それなのに、祐介さんはいつも、見えない部分にしかキスマークをくれなかった。
首筋の所有の印を愛おしそうに撫で、満足気に笑みを浮かべる和成先生。今までにない感情が、わたしの胸を満たす。この人だけのものに、なってしまおうか。
「和成先生、ほしいよ……」
早く繋がりたい。
「四つん這いになって」
言われるがまま、ソファの上に手脚をついた。すぐにタイツと下着をおろされ、ずん、と和成先生が入ってきた。
「ああんっあっあっ」
彼が腰を打ちつけるだひ、パン、パン、という音が室内に響いた。子宮まで響いてくる快感。何度も、何度も奥へ奥へと求めてくる。
「うぅ……っ」
小さく呻いたと思うと、彼のものが奥で弾けた。ペニスがぴくぴくと痙攣している。彼はそれに構わずわたしを仰向けに寝かせて、再び腰を動かし始めた。間髪入れず、快感が迫ってくる。しかも、確実にいいところを突いてくる。
祐介さんとは、獣のような激しいセックスをする。熱く貪り合う。けれど、和成先生は燃えているときでさえも、どこか落ち着いている。攻め方が理知的なのだ。計算し尽くしたように、わたしの気持ちいいところを攻めてくる。翻弄される。
「もうだめぇ、壊れる、壊れるっ!」
「壊れても……、僕が生き返らせるよ……」
唇を奪われる。舌も、身体も、体液も、すべてが絡み合う。くちゅ、くちゅ、と、淫猥な音が部屋に満ちる。
「いく、先生、いっちゃうよぉ!」
快感があっという間に昇ってきて、全身に広がった。脳まで痺れる。
「うっ、ああっ……!」
わたしの締めつけで、彼も絶頂を迎えた。さっきよりも大きくいった。きつくわたしの身体を抱きしめながら、中に全てをぶちまけた。
「凜ちゃん、愛してる。こんなにも、愛してるよ」
彼はそう囁くと、額、瞼、頬、唇に、ゆっくりくちづけを落とした。
わたしは、彼のシャツを捲って、胸板にキスをした。ちゅうっ、と吸ってみると、小さな赤いあとがついた。