投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

kiss
【その他 官能小説】

kissの最初へ kiss 3 kiss 5 kissの最後へ

kiss-4

 セックスの後、彼は自分のジャケットをわたしにかけてくれた。溢れ出る精子も拭ってくれた。
「なんだか、赤ちゃんのお世話みたいね」
優しさはうれしいが、ちょっと恥ずかしくなった。
「まあ、歳は娘と父親程離れてるよね」
 この人が父親だったらよかったと、ぼんやり思った。そうすれば、恋愛とはまた違う愛情で結ばれていたのに。いや、でも……。
「あなたがお父さんでも、わたしはあなたに恋してたと思う」
 ジャケットには、彼の匂いが染みついていた。清潔感のある、飾り気の無い匂い。わたしもこの匂いに染められたい。そうなれば、祐介さんには、捨てられてしまうのだけれど。
「奇遇だね。僕も今、君が娘だったらどうだろう、と想像したよ。きっと、今とあまりかわらないだろうね。君にパパと呼ばれながらセックスするのも、また燃えそうだ」
「男の人って、バカねぇ」
ふたりでくすくす笑って、軽いキスをして、服を整え始めた。
 いつものようにふたりで食事をし、彼の住むアパートに帰った。しばらくソファに座って、のんびり過ごしていた。
「凜ちゃん、お風呂は?君が行くなら、一緒に行くよ」
彼にそう言われたが、今日は妙に疲れて、身体が重い。
「ごめんなさい、もう少し休んでから入ってもいい?ちょっと疲れちゃって……。先に入ってほしいな」
「そうか。わかった。行ってくるよ」
彼はわたしの頬を撫で、唇に軽くキスをして、浴室に向かった。
 彼がお風呂に入る間、うとうとしながら出るのを待っていた。
 眠りに落ちそうになった時、わたしの鞄の中で、ケータイの着信音が鳴った。慌てて起きてケータイを取り出すと、祐介さんからの着信だった。
 胸がチクリと痛む。和成先生との行為。そしてここは、和成先生の家……。
 迷った挙句、電話に出た。
「もしもし」
『もしもし、凜?今日はもう、家に着いた?おれはこれから授業だよ。その前にどうしても、おまえの声が聞きたかったんだよ』
そっか、と相槌を打つと、ああ、凜の声だ。おれの大好きな凜の声。と喜ぶ声が、遠くの方で聞こえた。
 忙しくても、こんなに愛してくれている祐介さんを、わたしは裏切っている。全部自分が悪いのに、申し訳なくて苦しくなる。涙がこぼれ、嗚咽が漏れた。
『凜、どうしたの?泣いてるの?何かあったの?』
祐介さんの気遣う言葉が聞こえると、余計に涙が止まらなくなった。
 後ろでドアが開く音がした。驚いて振り返ると、和成先生が立っていた。泣いているわたしを見るなり、和成先生は無言で近づいてきた。
『凜?今、物音したけど、大丈夫?何かあったの?』
 ピッ
 和成先生はわたしからケータイを取り上げるなり、通話終了ボタンを押し、ケータイを床に放り投げた。こんなに荒々しい彼は、初めて見た。
「せんせ……きゃっ」
ソファに押し倒された。怖くなって、固く目をつぶった。しかし、わたしの予想に反して、彼は優しいキスをくれた。優しく触れた唇から、遠慮がちに舌が入ってきた。舌がそっと絡め取られる。
「ん……ぁ……んん……」
愛と慈しみに満ちたキスだった。
 名残惜しそうに唇が離れる。彼は切な気な表情でわたしを見つめている。まつ毛が瞳に影を落としていた。見とれるくらい、息を飲むくらい、綺麗な顔だった。
 わたしたちはどうすることもできなかった。ただ、今のふたりの間には、同じ切なさが漂っているということは、痛いほど感じ取ることができた。その切なさに駆られて、わたしたちは何度も何度も、お互いを求め合うのだった。





kissの最初へ kiss 3 kiss 5 kissの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前