28 弱者の抗い (性、残虐注意)-1
王子の側近といえば、かなり高い地位なのだが、エリアスはあえて最低限の権限しか持たず、身元も不明瞭なままで通していた。
アレシュが一言、クビにすると言えば、それで放り出せる立場だ。それくらいが調度良い。
下手に目立つ者は、それだけ敵も多くなる。
余計な争いは御免だし、うっかり海底城の事をかぎつけられたりしては、目も当てられない。
地上にエリアスが『欲しいもの』など無いのだから、出世も手柄も欲しがる者へさっさと渡す。
実際のところエリアスは、自分がアレシュにとって、非常に価値ある存在とは思っていない。
知識集めに利用させてもらう以上、誠意を持って仕えているが、あくまで利害関係だ。
魔眼暴走に関しても、完全に抑えられるカティヤと違い、エリアスは単に結界を張るだけ。
いくらでも取替えが効く存在。
周囲も、そう判断してくれると思っていた。
だから油断したのだ。
ヨランという錬金術師から、パレード前に見せたいものがあると誘われ、ついていった所、いきなり後ろから殴られた。
魔法ならともかく、力技にはまったくもって弱い。
両手足を縛られ、口には布を噛まされて詰め込まれた馬車の木箱には、先客がいた。
有名人の彼女は一目でわかる。派手なピンクローブの女錬金術師キーラだ。
馬車はすぐ走り出し、どうやら王都の外に出たようだった。
建国祭の間、王都へ入るのにチェックは厳しいが、出るには殆どノーチェック。
しばらく走った末に木箱ごと下ろされ、この古い石部屋で、やっと外に出された。
もちろん戒めは解かれず、キーラともども石床へ転がされた。