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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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28 弱者の抗い (性、残虐注意)-2


(はぁ……とんだ事になりましたねぇ……)

 冷めた目で、エリアスは室内を見渡す。
 魔法灯火で視界は明るいが、窓一つない地下室のようだった。もう長い事使っていないようで、壁石のあちこちにひびが入っている。
 たった一つの扉の前には、ストシェーダ風の武装をした若い騎士が、立ちはだかっていた。
 薄笑いを浮べたヨランは、縛られて転がっているキーラを見下ろし、エリアスたちが詰め込まれていた木箱には、いかにも傭兵崩れといった風体の中年男が二人、寄りかかっていた。もちろん彼らも武装している。

 ヨランはご丁寧に、パレードで今頃何が起こっているか、エリアスとキーラの不在を周囲にどう誤魔化したかまで教えてくれた。

「……塗料に混ぜた薬、元はアレシュ王子の血だけど、仕上げにマウリさまの魔力を入れたから、薬が完全に効けば一生マウリさまの言いなりだよ。すぐ落とせばいいけど、飲んじゃったり、塗った量が多すぎたら助からないね」

 大人しそうな青白い顔に、ヨランは歪んだ笑みを浮べている。

「最初に薬を開発したのはね、僕じゃないんだよ。その薬師は、マウリさまと揉めて逃げちゃったらしくて。揉めた原因はお金かな?詳しくは知らないけど。とにかくそれで、僕に声がかけられたんだ」

「〜〜っ!〜〜っ!!」

 キーラが烈火のごとく怒り唸るが、それが愉快でたまらないらしい。

「そうそうキーラさん、飛竜とリザードマンって、全然違うのに、二つとも魔眼王子の血とは共通点がいっぱいあるって知っていた?だから、薬を少し改良して飛竜用にするくらいなら、凡人の僕にもできたんだ」

 見た目に反しておしゃべりなのか、それとも何かの反動なのか。ヨランは堰を切ったように話し続けた。

「あの薬、何色の塗料に混ぜても、黒になっちゃって困ったよ。キーラさんてば、ナハトには絶対使わせてくれないんだもん。どっちにしてもナハトは殺されるから、もういいけどね。
ああ……それから、竜騎士たちの通信石を贋物にすり替えたり、管理塔の兵士達に毒を盛ったり、死にそうなくらいドキドキしたなぁ!あははっー!」

 狂気じみた笑い声をあげる青年を、仲間の男たちが三人が、薄気味悪そうに横目で眺める。特にストシェーダ騎士は、軽蔑の視線を隠そうともしなかった。

「ねぇ、キーラさん。これで僕の事を見てくれるよね?」

 しゃがみこんだヨランが、ピンクローブの胸元をつかんで持ち上げる。

「んんっ!?」

「ハ、ハハハ……輝く石の国……か」

 奇妙にしゃがれた笑い声をあげ、ヨランは瞳へ暗い狂気の色を浮べる。

「地味で何の輝きもない僕の気持ちなんて、キーラさんには解らないよね。凡人が死ぬほど努力してもできない事を、軽々こなせるんだから。
貴女はその姿になってさえ、いつだって綺麗に輝いて……昔から僕の憧れで……」

 鮮やかな布地を握り締める両手が、ブルブル震えていた。

「ずっとずっと考えてたんだ。どうしたらキーラさんは僕を見てくれるかって。
どんなに頑張っても貴女には追いつけない。輝く貴女は前だけ見て、後ろでくすむ凡人の僕なんか、視界にも入れてくれない……」

 他の人間の存在など目に入らないように、ヨランは喋り続ける。

「だから……すごく簡単な方法を思いついたんだ。
僕が輝けないなら、キーラさんがくすんでしまえばいい。貴女の輝きを無くしてあげる。
キーラさんをくれるなら、お金も地位もいらない。裏切りでも何でもするって、マウリさまに言ったんだ。
キーラさん……手足を切り取って薬漬けにして、一生飼ってあげる。食事も投薬も排泄も全部やってあげるよ。
僕なしで生きられないキーラさん……最高だよ!!アハハハハハハハ!!!!!!」

 蒼白になってキーラは震えていた。大きく見開いた両眼から、涙がボロボロ零れている。
 騎士は表情に嫌悪を強め、傭兵たちは額を軽く叩き『アイツ、イかれてんなぁ』と、示しあっている。




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