人の欲X-1
楽しい食事をすませたあと、ゼンは何かを思い出したように声をあげた。
「すっかり忘れてたぜ・・・」
「?」
首を傾げる葵にゼンはすまなそうに向き直った。
「今夜俺の世界で王たちが集まるんだ。お前も参加して当然なんだろうが・・・連れて行くこともできないしな・・・」
と、その目が秀悠を睨んだ。
「お前、俺がいない間に葵に変な真似すんじゃねぇぞ?」
ゼンの鋭い眼光に射抜かれた秀悠は嫌な汗がにじみ出るのを感じた。
「変な真似って・・・」
「冗談だよ冗談。
一晩俺が戻るまでお前が葵を守れ、っていっても葵がそんな弱いわけねぇけどな」
「大丈夫ですゼン様、お気をつけていってらっしゃいませ」
にこやかに微笑む葵はゼンを外まで見送りにでた。
「いってくる、なるべく早く戻る」
ちゅっと葵の額に口付けるとゼンは美しい翼を広げて己の世界へと通じる回路目指して飛び立った。
ゼンの姿が見えなくなるまで空を眺めていた葵は・・・ふと視線を感じあたりを見回した。
(・・・気のせい?)
「葵さん?」
外を気にしながらも名前を呼ばれて葵は秀悠の待つ家へと入っていった。
秀悠とは別の部屋のベッドに横になった葵は窓の傍で祈りを捧げていた。
(全ての者たちにこの愛が届きますように・・・)
葵の愛が光の粒となって大地へと降り注ぐ。その輝きとは異なる、生活の火が灯り・・・それは夜遅くまで続いていた。
―――――・・・
ガタッ
小さな物音に目を覚ました葵は薄く瞼をひらいた。
「・・・ゼン様?」
名を呼んでも反応がないことに首を傾げながら、葵はベッドからその身を起こした。
ギィ・・・
「あなたは・・・」
暗闇に目を凝らしながら黒い影を見つめると・・・その影は素早く葵の元に駆け寄り、布で口を塞いだ。
「・・・・んんっ!!」
その影に葵は見覚えがあった。
ゼンに声をかけてきた神官が今葵の口を塞いでいるのだ。
(一体なにを・・・!!)
薬の匂いを含んだ布に意識を奪われそうになりながらも、葵はその場に踏みとどまった。
するとそっと耳元で囁かれる。