人の欲V-1
「お嬢ちゃん!!なんて失礼なことを・・・!!」
数人の町人に連れられた曄子はそれでも口を閉ざさなかった。
「違う・・・あの人は女王なんかじゃない!!!一緒にいる人たちだって神官なんかじゃない!!!!ただの人間よ!!」
女王を取り囲んでいた神官たちが脇にさしていた剣を静かに抜き取った。
「・・・娘、陛下を愚弄するつもりか?」
「ひっ・・・!!」
その剣に恐れおののいた民たちは二、三歩あとずさった。
その時、バタバタと駆け寄ってくる一人の青年が曄子の前に立ちふさがった。
「申し訳ありません!!この子は・・・昨晩より高熱を出しておりまして現実と夢があいまいになっているのです!!どうぞお許しください!!」
はっとした曄子が目の前の青年に目を向けると・・・
「先生・・・」
「貴様はなんだ?今の言ったことは本当だろうな?」
「はい、私はこの町で医者をしております秀悠と申します。彼女の薬を調合しておりますのも私です!!」
「どうして先生・・・だってこの世界の王様は・・・」
「今は耐えてください曄子さん。ここであなたが傷つけば葵さんが悲しむ・・・!!」
きつく握られた秀悠の拳が震えているのを見て、誰よりも耐えているのは秀悠なのだと曄子は思い知った。
ふぅ、とため息をついた神官の一人は後ろにいる主へと判断を求めた。
「もうよい・・・下がれ娘」
女はうっとおしそうにその手に持つ扇をあおり、二人に散れと合図を出した。
その場から離れた秀悠と曄子は苦々しく一行の後ろ姿を見送っている。
「先生、どうして葵さんは何も言わないんでしょう・・・仙水さんだってどうして・・・」
曄子の胸は仙水の名を口にしてズキリと胸が痛んだ。彼女を大事にしている仙水さんが黙っているわけがないと曄子には思えて仕方がなかった。
「葵さんはこのこと知っているんです」
「じゃあどうして許しているんですか!?」
激昂した曄子が秀悠に詰め寄った。
「葵さんは自分の偽物が現れても・・・それを咎めたりはしない」
「なんで・・・・」