人の欲U-1
ゼンと葵は秀悠をその場に残して早急に彼の家へと戻ってきた。
「・・・・・」
窓の外を眺めているゼンの横顔はとても美しい。少し日に焼けた肌も、彼の色気を引き出すひとつの魅力になっている。
(先程の男性の話・・・あの女性がゼン様に興味を持たれたという感じのものだった)
葵の視線に気が付いたゼンが訝しげに顔を覗きこむ。
「どうした」
優しく引き寄せるゼンの胸元に顔を埋めた葵は、ゆっくりと彼の匂いを吸い込んだ。
(ゼン様いい匂いがする・・・)
葵がゼンの背中に手をまわし、彼を抱きしめた。
「・・・・っ」
びくっと体を震わせたゼンに、葵が驚いて顔をあげた。
「ゼン様?」
「あ、・・・いや」
照れたように視線を逸らしたゼンの頬はわずかに赤くなっている。
「一瞬、お前が俺を受け入れてくれたと・・・錯角した」
「あ・・・っ」
慌てて離れた葵の腕をゼンは強く引き寄せた。
「逃げるな。
お前が自然にそうやって俺を求めてくれるのが俺は嬉しいんだ」
「わたし・・・」
その言葉を聞いた葵は、知らず知らずにうちにゼンに心惹かれていることに気が付いた。
(誰にも渡さない・・・お前の神官たちにも、この世界の民にも・・・・)
ゼンは葵を抱きしめるその腕に力を込めた。
――――――・・・・
近所の中年の女性に連れられた曄子が重い足取りで広場に顔を出す。女王陛下一行は民たちの用意した宴の席へと移動している最中だった。
「ほら!!曄子ちゃんもしっかり見ておくんだよ!!あれがこの世界の女王陛下さ!!」
「別に私会いたいとは・・・」
気のすすめない曄子がおずおずと視線を向けた先には・・・――――
「・・・誰?あれがこの世界の王さま・・・?」
「しーっ!!声が大きいよ!!何言ってんだい?あれが正真正銘の女王陛下の葵様さ!!」
(じゃあ私が見た葵さんや仙水さんは・・・?)
ふらふらと一行に近づいた曄子は自分でも驚くようなことを口にした。
「・・・あんた誰?」
曄子に道を譲ってくれた町人たちがぎょっとして曄子に近づいた。