人の欲T-1
自分を葵だと名乗った女は切れ長の黒い瞳、長い黒髪に美しい髪飾りを身に着け、肩と胸元を大胆に露出した艶やかなドレスを身にまとっている。
満足げにあたりを見渡すその瞳は、茫然と立ち尽くす葵ら3人を視界にとらえた。
そして、その目は興味深げにゼンの姿を見つめると・・・傍に控えていた神官のひとりへと何やら耳打ちをしている。小さく頷いた神官が小走りにゼンの前にやってきた。
「そなた、名をなんと申す?
女王陛下が直々にそなた話がしたいとおっしゃっている」
民たちが羨ましげな眼差しでゼンを見つめた。
「なんと幸運な・・・っ!!」
「女王陛下が直々にお言葉をくださるなんて・・・」
「うらやましぃいいっ!!!」
「ふん・・・
俺はあんたに興味はない。そう伝えてくれ」
鋭い視線で神官を見やったゼンはさらに後ろにいる女王を睨みつけた。だが、その視線させ受け流すように女は口元に笑みを浮かべている。
「行くぞ、葵」
「は、はい・・・」
ゼンに手を引かれ、葵は神官へ一礼するとその場をあとにした。
「あんな奴が人界の王だなんて信じてるやつらどうかしてるぜ」
ゼンはその鋭い眼光で偽りの王の力量を見定めていた。
王を名乗るからには王に近い輝きがあるのかと思っていたが、王のもつオーラどころか、慈愛の輝きがまったくといっていいほど感じられなかった。
(葵の魂が輪廻である限り・・・葵が人界の王という枷から逃れることはできない)
「俺は何を考えているんだ・・・」
(人界の王が別のやつだったら・・・葵がただの人間だったなら・・・)
きっとゼンは迷いなく彼女を己の治める国へと連れ去っていただろう。そして二度とこの地へ帰すことなく、生涯を共に過ごしたに違いない。
「ゼン様?どうかなさいましたか?」
心配そうに顔を覗きこむ葵の頭に手をのせたゼンは・・・
「もしかしたら・・・
俺だけの葵に出来るんじゃないかと微塵でも思った俺が馬鹿だった」
「・・・・・」
ゼンの言葉の意味がなんとなくわかってしまった葵は眉を下げた。
「ゼン様・・・」