恋する放課後-6
結局、俺のワガママを雅は受け入れてくれ、職員室までの短い道のりを二人肩を並べて歩いていた。
一歩一歩足を踏み出すごとに、雅との距離が縮まっていくような気がしたのは、思った以上に会話に花が咲いたからだと思う。
やはり、クラスメートのバカ話が一番盛り上がり、とりわけ桝谷の「阿部さん病」の話をしてやると、声を上げて笑っていた。
その横で密かに胸をときめかせていたのは、もちろん秘密。
屈託なく笑う顔、歩くたびにサラサラ揺れる黒髪、純白のブラウスからほっそりと覗かせる白い手首。
そんな彼女の美しい姿が目に入るたびに、純粋な思いが沸き上がってくるのを強く感じていた。
もっと、一緒にいたい。この笑顔を俺だけのものにしたい、と。
ついこないだまでは、女に対して拘束して思いっきり犯してやりたいと思っていた俺が、雅に対しては優しく愛したい、この小さな身体を温かく包んであげたい、という想いを抱くようになるとは、夢にも思わなかった。
この気持ちに名前をつけるとしたら、間違いなく「恋」と呼べるだろう。
階段を降りながら、雅の横顔をチラリと眺める。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「変なの」
そう言って笑い合うだけで、胸が熱くなってくる。
あー、幸せ。
いつまでも肩を並べて歩いていたい。そう願いながら俺は一足先に階段を降りきった、その時だった。
「あれ、ヒロ」
聞き慣れた声が前方から聞こえてきて、ゆっくり顔を上げるとそこには端正な顔立ちの細身の男が職員室から出てきた所だった。
「……兄貴」
ギクリ、と身体が強張る。
「お前、まだ学校残ってたの?」
「あ、ああ。ちょっとこれ職員室まで運べって言われてさ」
「へえ、そうなんだ」
兄貴は口を少しすぼめて俺を見た。
そんな何気無い表情もサマになってる兄貴。弟の俺から見てもやっぱりかっこよくて、ゆかり先輩らがお近づきになりたがるのも頷ける。
大好きな自慢のヒーロー、風吹徹平。
でも、今だけは兄貴に会いたくなかった。
「風吹くん、こちらはお友達?」
少し遅れて階段を降りた雅は、兄貴をチラリと見てから俺に視線を向けた。
「……いや、兄なんです」
しばし逡巡してから、顔を俯かせてそれだけを答えた。