偽りの王W-1
可憐な葵のまなざしをうけた遥人は恥ずかしそうに視線を秀悠に戻して言った。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。秀悠にお世話になっております、私は葵と申します」
律儀にお辞儀をする葵につられて遥人も慌てて頭を下げた。
そんな姿をみたゼンは小さく笑っている。
「・・・まぁ、そんなところも葵らしくていいんだけどな?王が民に頭を下げるなんてのは聞いたことないぜ?」
まだ笑いを止められないでいるゼンの言葉に遥人は注目した。
「え?今なんて?」
そんな遥人に秀悠は慌てて話を戻した。
「遥人さん!!今すぐ薬をお持ちしますから!!」
突然大きな声をあげた秀悠に遥人は目を丸くした。
「あ、あぁ・・・
そうだ・・・っ!!先生も来るんだろ?陛下のお出迎え!!」
「・・・陛下?」
ピクッと眉を動かしたゼンは視線を彼に切り替え、遥人の次の言葉を待っていた。
「まもなく陛下と神官殿がこの町に足を運んでくださるらしくてもう皆準備を始めてるんですよ!!」
薬を手に秀悠が唖然とした様子で遥人の話を聞いていた。
「遥人さん、陛下と神官殿って・・・まさか・・・・」
秀悠の視線がゼンと葵に向けられる。
小首を傾げている葵の様子から、違和感をおぼえた。
「あぁ、夢のようだ・・・この世界をお守りくださっている神のような方々に会える日が来るなんて・・・」
うっとりとした眼差しで遥人はまだ見ぬ女王と神官へと思いを馳せていた。
「・・・・・」
遥人以外の三人は顔を見合わせて疑惑の念を抱いていた。
――――――・・・・・
遥人を見送ったあと、慌ただしくなった町の様子を見るために葵たちは人の多い広場に来ていた。
「葵さん、一体どういうことなんでしょう・・・」
不安にかられた秀悠は拳を握りしめ、嫌な胸騒ぎをぬぐいきれずにいた。
「まさかとは思うが、偽者が現れたか・・・」
ゼンのいる世界でそのような事はありえなかった。王の顔は治める国以外にも知れ渡っており、偽者が現れたところで誰も信じず、民が踊らされることなど一度もなかった。
「お前・・・あまり民に知られてないんだな」