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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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25 非日常の歪み-6


 ***

 王都にいくつもある劇場や広場では、午前中からずっと、国の歴史にまつわる様々な歌劇が上演されていた。
 民衆達は喜劇に笑い、悲劇に涙し、恋物語に胸をときめかせ、夢中で見入る。
 しかし、午後三時。
 ラッパと太鼓の音が華やかなパレードの開始を告げる頃には、満員だった劇場も半分ほど空になってしまった。
 建国祭の最大イベントを見逃すまいと、王城から城門へ続く道の両脇は、人で埋め尽くされる。
 昨日の朝、使節団を迎え入れた場所だが、あの時が『満員』なら、今の状態は『これ以上ないほど超・満員』だ。
 背の高い両脇の建物にも、ほぼ全ての窓から、鈴なりの見物客が顔を突き出している。
 十六頭の飛竜たちの合間には、それぞれ衣装の異なる楽団と踊り子の団が入り、見事な演奏と踊りを披露する。

 バンツァーは列の真ん中で、鉄の剣と赤い炎を象った山車を引いていた。
 すぐ前にはナハトが歩いている。
 白と金の花模様を全身に描き、白い翼を持った黄金の乙女像の山車を引く姿は、とても愛くるしかった。
 一昨日の夜考えた結果、ナハトを自分へベッタリさせるのはやはり良くないと、結論づけた。
 あえて素っ気無く接し、昨夜も相性の良さそうな雄と一緒に寝ろと諭したら、決定的に怒らせてしまったようだ。
 毎年、ペイントが終わると、一目散にバンツァーの所へ見せに来たのに、今日は話しかけもしないでさっさと列に並んでいた。

(仕方ない。これで次の春には、他の飛竜へ目を向ける気になるだろう)

 自分へそう言い聞かせたものの、チクチク心臓が痛み、嫌な気分は晴れない。
 黒い塗料を全身に塗られているせいか、心臓まで黒く染まり始めるような気分になってくる。
 表現しがたい苛立ちは募る一方だ。

 華やかなファンファーレも歓声も、全てがひどく耳障りで、バンツァーを苛立たせる。
 このパレードに出る事を毎年誇りにしていたというのに。
 鞍にのって手綱を取るベルンの存在までが苛立たしいなど、どうかしているに違いない。
 どこか広い場所で思い切り暴れたら、さぞスッキリするだろうが……。

『もうすぐだ……』

 誰かがそっと、脳裏で囁いた……。




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