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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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24 輝く石の国-1


 ジェラッド王都を守るのは、頑丈な砂岩の二重城壁。
 高さ約十二メートル、全長約二十キロに及ぶ。八箇所の鉄門があり、見張り塔の数は三十を越える。
 三百年以上も昔、ストシェーダ軍が二年間も攻囲しながら陥落できず、無敗神話を覆した、ただ一つの城砦だ。

 巨大な正門の脇に立つ塔上で、雪花石膏の女性像が一体、夏の輝く朝日を浴びている。
 大陸で最も有名な女傑・シュテファーニエ女王の像だ。

 当時の彼女は、正門守備を任されていた女将軍だった。
 兵糧も付きかけ、これ以上の篭城は無理と判断した彼女は、残り少ない食料を全て正門そばで料理させ、楽団に演奏させながら、着飾ってこの場所に立った。
 そしていちばん太った鶏を、惜しげもなく包囲陣へ投げこんだ。

『差し上げますわ。我が家の食卓に、建国祭のご馳走が溢れてしまいましたの』

 高笑いする彼女の後ろから、聞えてくる楽しげな祭りの音、かぐわしい料理の芳香。
 包囲陣の士気は、地に落ちた。

 ストシェーダ兵達の方も、二年間に及ぶ包囲にくたびれきり、陥落は間近と互いに励まし、歯を喰いしばっていたのだ。
 新年も祝日も家族に会えず、粗末な簡易小屋は暖もろくにとれない。
 もう一度ここで冬を越すくらいなら、死んだほうがマシだ。と吐き捨てる兵も続出した。
 ストシェーダの将軍は、軍をを引き締めようと不満をぶちまけた数人を見せしめに処刑したが、かえって反感を煽るだけだった。
 これ以上の包囲は無理と、ストシェーダ軍は仕方なく撤退し、後から真相を知ったストシェーダ王は、彼女を褒める手紙を書いたという。
 口先一つで軍隊を退けた彼女は、片手に剣を、もう片手に太った鶏を高々と持ち、建国祭に訪れた各国の使節団を、厳かに眺め降ろしていた。
 整備された大陸行路へ、騎馬と馬車が並木道に沿って長い長い列をなし、かかげている各々の国旗が、さわやかな風にたなびく。
 城壁や塔の窓からは、良い見物席を得た国都民たちが満面の笑顔を出していた。

「開門!!」

 いつもより一時間早く、巨大な鉄扉がゆっくりと開く。
 地面が揺れるほどの歓声が、城砦内から沸きあがった。
 美しい彩の敷石でつくられた広い道の両側に、晴れ着を着たジェラッドの民たちがぎっしり並んでいる。
 背の高い家々は、どの窓もリボンや旗、無数の花や果物で飾りつけられていた。
 旗は国旗が主だが、他にも色々ある。鶏の図案は勿論、錬金術ギルドや鍛冶屋ギルドのマーク。飛竜公国の旗も、そこかしこでたなびいている。

 ジェラッドをここまで大きくしたのは、マーブル階級と言われていた。
 件のシュテファーニエも、両親ともに蛮族だった。
 しかし幼い頃に、わずかながら魔力を開花したため、騎士の家で養女となった。
 女将軍として才幹を認められた彼女は出世を重ね、ついには国王に求婚され王妃となる。
 蛮族あがりと侮蔑され、敵も多かった彼女だが、夫亡き後は女王として国を長らく治め続けた。
 当時まだ評価の低かったマーブル階級を積極的に教育・雇用し、鉱山の多いこの地で、錬金術と鍛冶技術を発展させた。
 そして辺境の貧乏国を、一代で大国ストシェーダに匹敵する富裕国へ発展させたのだ。

 勿論これは、きわめて類稀な例だ。
 ジェラッド国では、むやみに奴隷を虐げる事は禁じられているが、いまだ蛮族は家名を持つ事も許されず、金銭で身体を売り買いされるにはかわらない。
 それでもシュテファーニエの立身出世は、多くの蛮族たちに希望を与えた。
 彼女の名は希望の灯であり、ここには他の国に無い熱気と輝きがある。



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