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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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23 強者の渇求(性描写)-8

***

 ミスカはエリアスを抱き締めたまま、ぐしょ濡れの衣服を操って、身づくろいを整えさせる。
 喘ぎ疲れたエリアスは、されるがまま虚ろに視線だけを外した。
 地上に出てから、顔を会わせるのはこうして時おりになった。
 それでも会うたび、ミスカはエリアスの心を嬲る。

 襟元の紐を結ぶ前に、首筋を痛みが走るほど強く吸われた。

「エリアス……俺が本当に欲しいのは……」

 ミスカの声とは思えない苦しげな呟きは、そこで止まってしまった。
 換わりに浄化の炎を操り、汚れた衣服からエリアスの身体の中まで、全て丁寧に清める。
 芝生の上にエリアスをそっと寝かせると、そのまま振り返りもせず池の水鏡へ飛び込み、帰ってしまった。
 ミスカを飲み込み、池はただの水へ戻る。

「……ぅ」

 揺れた水面が元の静けさを取り戻す頃、ふらつく足を踏みしめ、エリアスはようやく立ち上がった。
 男体に戻ろうと呪文を唱え始めた時、大きくよろめいた足が結界石を蹴り飛ばす。

「あっ!」

 結界が掻き消えたのと、夜風に当たって酔い覚ましをしていた騎士が気付いたのは、ほぼ同時。
 とっさに地面を蹴り、そのまま池へ飛び込んだ。

「うわっ!大丈夫ですか!?」

 騎士が駆け寄る間に、なんとか呪文を唱え終わり、暗い水中で男にした身体を起こす。

「あれ?エリアスさん……?」

「ええ。ちょっと足を滑らせてしまいまして……」

 苦しい言い訳をしながら、不思議そうな騎士に手を貸してもらい、池から出た……。
 それが『池に落っこちたマヌケ』になった理由だ。

 宿の風呂で魚臭い身体を洗い、夜の庭で苦労して結界石を回収した。

(……まったく)

 ひどい厄日だ。
 それもこれも全――――――部!! ミスカのせいだ!!

 ようやく部屋に戻ると、アレシュがニヤニヤしていた。

「災難だったな」

「ええ。今日は厄日です。アレシュさまは違うようですが」

 表情からするに、何か良い事があったのだろう。

「カティヤに会った」

「……え?」

「会っただけだ。心配しなくとも、もうお前を呆れさせるような真似はしないさ」

 上機嫌の魔眼王子は布団に潜り、黒と金の両眼を閉じる。

「おやすみ」

「――おやすみなさいませ」

 詳細を問いただす気力も残っておらず、そのままベッドに倒れこむ。
 何があったかは知らないが、とにかくアレシュから不安の影が消えているのは良い事だ。

 個人的にはカティヤも気に入っている。
 元蛮族でも竜騎士でも、傍にいさせてやりたいと思う。
 再会した二人が日ごとに惹かれ合うのが、側からもありありと見て取れた。

 それでも現実は甘くない。
 どんな強者にも、手に入らないものはある。

『エリアス……俺が本当に欲しいのは……』

 苦しげな声が脳裏に蘇る。
 きっと、ミスカも手に入らない何かに苛立ち、手近なエリアスで誤魔化そうとしているのだ。

(それにしても、妙な縁ですね……)

 暗闇で目を瞑り、エリアスは心の内に呟く。

 昔、何かの折にツァイロンから聞いた。
 海底城に連れてこられた赤子の頃、エリアスは蛮族の女児だったらしい。
 そしてミスカは、魔法使いの父親から捨てられたそうだ……魔眼の赤子だった故に。




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