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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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24 輝く石の国-2

 鉄門が全て開き、出迎えの楽団が高らかにマーチを奏でだした。
 あらかじめ決められた順で、各国の使節団たちは、堂々と入場していく。
 危険防止のため、見物席と通り道はロープで区切られていた。
 そしてロープの前には、正装の軍服に身を固めた竜騎士たちが、自分の飛竜の脇に立ち、各所を警備している。

 カティヤは通りの中ほどで左側に配置され、ナハトの横で敬礼を取っていた。
 やがて行列も半分ほど国都に入った頃、楽団の音色が一層高らかなものになった。 
 次の使節団を率いるのは、緋色の髪をした黒衣の青年。
 ストシェーダ使節団が一番メインとして扱われるのは例年通りだが、今年は更に人々の興味を引く要素があった。
 噂に聞く魔眼王子へ、通りいっぱいの視線が集まる。
 正装で騎馬に乗ったアレシュは、大国の王太子として堂々と振る舞っていた。
 あからさまな好奇の視線に怯む事も無く、まっすぐ前を向いて進んでいく。
 ゴーグル越しにその姿が見え、たとえようのない嬉しさが湧き上がった。
 そして……また幼い声が脳裏に響いた。

『おうじさまも、お外へ行けたら良いのに』

――カティヤに囁いた声は、幼い頃の自分だった。

 黒鱗が取れ、牢獄からは城の一角に移れたものの、アレシュに部屋から出る許可は、なかなか降りなかった。
 窓から唯一見える、春の庭を眺めるアレシュに、いつか四季の庭を全部、手をつないで歩こうと約束した。

 通りの中ほどに来たとき、黒と金の魔眼が、ふとカティヤへ向いた。
 分厚い貫頭衣のマントと、冑で顔の上半分が隠れているが、カティヤと気付いたのだろう。
 なにしろ傍らには、ナハトという非常に目立つ看板が立っているのだ。
 一瞬、とても愛しそうに魔眼が細められたのは、夏の眩しい陽光のせいだったかもしれない。
 すぐに視線はそらされ、何事もなかったようにストシェーダ使節団は、王城へ進んでいく。

 長い長い列が終り、全ての使節団が国都に入ってしまうと、人々は興奮しながら次の楽しみを求め、散っていった。
 竜騎士団も、次は王城での式典や広場のイベントなど、多忙極まりない。
 カティヤはナハトに乗り、急いで城へ撤収する。
 手綱を持ち、首を叩いて合図すると、薄紫の翼が大きく羽ばたいた。浮遊感が全身を包む。
 夏の日差しと強風を冑のゴーグルで防ぎながら、一気に急上昇した。

「ナハト、アレシュさまを見ただろう?」

 誰にも聞きとがめられない上空で、どうしても我慢できず、こっそり囁いた。

「とても素敵だったな」

「きるる!」

 カティヤの半身である飛竜は、可愛らしく鳴いて同意をしめす。
 そして長い首を曲げ、気遣わしそうにもう一声鳴いた。

「ああ……心配いらない」

 冑の下から頬を伝い流れてきた雫を、指先で払った。

 あの約束が果たせなくとも、アレシュはもう夏の陽を浴びている。
 秋空も冬景気も、アレシュは見る事ができる。


「私は、アレシュさまが好きだ。それを思い出せて…………嬉しかったんだ」



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