恋とは何なのだろうか-2
そんな異常な性癖を持っていたことに気付いたせいか、透けブラごときで喜んでいる桝谷がやけに純粋に見えた。
「あーっ、彼女欲しいなあ。そうすればあのブラウスの中身を拝めるのに」
桝谷はそう言ってゴツい顔に似合わない、甘いいちごオレをストローでズルズル吸い込んだ。
「なあ、桝谷。お前はどういうシチュエーションで女とヤりてえんだよ?」
「なんだよ急に」
「いや、お前がもし女できたら、どんな風に女とヤりてえのかなってふと気になってさ」
まだ女を知らない桝谷は、一体どんな欲望を持っているのか、コイツのリビドーは何なのかを知りたかった。
「え、どんな風にって、俺の部屋かどこかで普通にヤるだけだろ。それが普通なんじゃねえの」
何当たり前のこと訊いてんだ、とでも言いたげな不思議そうな顔をする桝谷から、思わず目を反らした。
やっぱりそれが普通であるんだろう。桝谷が模範解答を答えたことにより、自分の異常性をハッキリ自覚せざるを得なかった。
「博次は徹平さんのおこぼれとはいえ、女には不自由してねえもんな。羨ましいよ、マジで」
「そんなこたねえだろ。最近は全くヤってねえし」
そう、俺は自分の性癖を理解したあの日以来、女とは交わっていなかった。
もちろんその後も、兄貴目当てで協力を求めてくる女は何人もいた。
そこそこ可愛くて、バカで、兄貴とヤりたくて仕方ないような下品な女ばかりが。
でも、そんな股の緩そうな女よりも、自分の方がよっぽど腐った最低人間な気がして、いつものようにうまい口車でベッドに誘うことはできなくなってしまった。
もしも、セックスまでに持ち込んだ時に、自分の本性をさらけ出して、バカ女に蔑んだ目で見られることが怖かったのだ。
多分次に女とヤるときは、絶対に“普通”に戻れない。
なぜかそんな気がした。
「ああ、早くオレも童貞脱出してえよー。阿部さーん、オレの気持ちに気付いてくれえ」
そんな俺の心の内を知らずに、なんとも情けない声で机に突っ伏しながら、隣のクラスの阿部さんへの想いを叫ぶ桝谷。
今はそんな奴の姿が眩しく見えた。