サッシーの屈辱-1
まず、その尾志谷麗子という天敵の顔を覚えておかなきゃいけないってことだ。
「これは、全く偶然なんだけど……」
サッシーが１枚の写真を俺に見せた。何人かの女共が写っていてその中にサッシーもいた。
「ほら……僕の右隣りにいるワンピーの女の子、それが押志谷麗子だよ」
なるほど、猫っぽい女どもがサッシーと一緒に写っていて、その中でアイドルを意識した純白のワンピースの気取った女が写っている。
こいつか？ にっくき毒婦は？ こいつが俺の天敵の尾志谷麗子って奴か。
どうしたら、この毒婦を岡本から引き離すことができるんだ？
いや……待て、そうじゃない。
岡本をこの小悪魔から引き離せば良いんだ。どうやって？
ところでその前に、なんでサッシーが奴らと一緒に写ってるんだ？
そうか……サッシーが実は尾志谷の悪い仲間の１人だったということか。
「だから、そうじゃないって！ 何故かわからないけど、この子たちが僕に近づいて来て一緒に写真撮ろうと言ってきたんだよ」
俺はそのときに閃いた。つまり全体像が見えたんだ。サッシーは今でこそ男みたいな格好をしているが、半年前まではロングヘアの美少女で、ミス学園と言われていたんだ。
それがどういう心境の変化か分からないが、今みたいになって、俺のマブダチの一人に加わったってことだ。
まあ、そのサッシーのことをどこかで聞きつけて、ミス・フェロモンが自分と比べたくて並んで写真を撮ったんだろう。
尾志谷麗子にすれば、いくらミス学園といわれたサッシーでも今は女子力を完全に放棄して、化粧もしてないから自分と並べば見劣りすると考えたんだろう。
なるほど確かに脳みその腐った雌狐の考えそうなことだ。
その証拠に押志谷の勝ち誇った表情がそれを物語っている。
雌狐の仲間の女共の目も面白がって視線がサッシーに集中している。
サッシーだけが訳が分からずにきょとんとしているから、写真から浮き上がって見えるんだ。
こういうだまし討ちみたいなことを平気でするのが、腐った果物の匂いのする女どもなんだ。
俺はこの写真の意味をサッシーに解説してやった。
「そ……そうなの？ やっぱり」
さすがにサッシーも少しは察しがついていたらしい。あっ、これは別に狙った駄洒落じゃないぞ。
俺はそこで決定的なことを言った。
「だがな、女の浅知恵ってこんなもんだよ。笑えるね」
「何がだよ？ 天野、何を言いたいんだ？」
サッシーが早速食いついて来た。俺は釣り糸を手繰り寄せることにしたね。
「女をちょっと見の表面しか見ない間抜けな奴は、この写真の中のナンバーワンは尾志谷麗子って奴だと思うだろうな。
特にお洒落や服装に拘る女同志なら、そう見るかもしれない」
サッシーの目はきらきらと輝いて来た。そうだよ、俺は真実を言ってるんだ。
言い方をちょっと演出してるだけで、決して嘘は言ってない。
だから、俺の言葉はサッシーの胸の奥に突き刺さる筈だ。
「そうだな、男でも１０人に９人までは騙されるかもしれない。
だけど１０人のうち１人はナンバー・ワンは別の人間だってわかるよ。
女の魅力を本当に分かってるのは男だよ。それも……見る目のしっかりした男だ」
俺はそこで言葉を止めた。ここが俺の頭の良いところだ。
って自分で言ってしまったが、俺も必死なんだ。
「天野……ずるいよ。どうして最後まで言わないんだよ。僕は聞きたいよ」
「聞きたいか？ だけど俺は言う気はないよ。
女を口で褒めるのは俺のポリシーに反するからな。
但し答えを自分で確かめる方法が１つある。
尾志谷と同じように女子力満載の格好をして岡本の心を掴んだら、それが答えになるってことだ」
それを聞いた途端、サッシーが顔を真っ赤にして地面に足を踏みつけた。
サッシーは昔から怒るとそういう動作をする。分かりやすい奴だ。
「天野！ お前は僕を利用して尾志谷から岡本を引き離そうとしてるんだね？」
どんぴしゃり、よくわかったね。大変よく出来ました。その通りです。
って喜んでる場合じゃない。ここは慎重に持っていかないと……。
「いや、この際俺はどうでも良い。女の戦いには興味がないからな。
ただ、お前が尾志谷の鼻を明かすとしたらそういう方法もあるってことを言っただけだ。
俺は俺で、岡本にもう一度頼んでみる。ただそれだけだ。
友達のお前に迷惑をかける訳にはいかないからな」
「絶対僕はそんなことはしないぞ。天野の思い通りにはならない！」
「良いんだ、それで。今言ったことは忘れてくれ」
俺はサッシーに、そう言ってにっこり笑いかけたと思う。