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ミス・フェロモンを倒せ!
【コメディ その他小説】

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天野危うし!-1

俺の名前は天野安治。高校2年生の17才だ。
実は3学期の学年末テストを終わって俺は焦ってる。
数学と英語と物理と漢文が赤点だったんだ。
赤点というのはテストの結果が35点に達しない、不合格点のことだ。
それが4科目あるということは大変なことなんだ。
赤点が3科目あるだけで次の学年に進級できない。つまり落第だ。
えっ? なんでお前はそんなに頭が悪いのかって? 違う、違う。
俺だって学期末テストは最低でも各科目40点以上は取っていて、いつも滑り込みセーフを決めていたんだ。
というのは俺には強力な個人教授の助っ人がいたから、助かっていたんだ。
そいつの名前は岡本晋也。
顔はラクダが眼鏡をかけたような間抜けな顔をしてるが、頭は抜群に切れる秀才だ。
いや待て、秀才というより天才と言った方が良い。
そいつが学年集会で自由研究発表したときのことは伝説になっている。
両手にチョークを一本ずつ持って、左手で黒板の左上から書き始め、右手で黒板の真ん中の上から書き始めたんだ。
400桁の円周率を両手で同時に書き始めたってこと。言ってる意味がわかるかな?
左手で3,14159263358979……と最初の200桁を書きながら、右手で201桁目から400桁目までを同時に書いて行くんだよ。
そして両手が同時に終わったとき、黒板には端から端までびっしり円周率の400桁分が書かれていたってことだ。
だが岡本がすごいのはそれだけじゃない。
どこの国にも留学してないのに、英語はもちろんフランス語、スペイン語、ロシア語、ドイツ語、中国語、ハングルの7ヶ国語を自由に読み書きできて話せるんだ。
全部ラジオ講座を聞き流しながら覚えたというからすごい!
だが、いくら秀才とか天才とか言われてもそれを人に教える能力というのは別物だ。
スポーツでも一流の選手が必ずしも一流のコーチになれるとは限らない。
自分ができるということと人に教えることができるということは別のことなんだ。
だが、岡本は違う! 教えるのがうまいんだ。
数学の難問でも、分かりやすく易しく教えてくれるから掛け算の九九みたいに簡単に解けてしまう。
授業で教師がいくら何時間も繰り返して教えても覚えられなかったことが、岡本に教えてもらうと5分で分かってしまう。
俺にはそういう強力な助っ人がいたから、今まで赤点なんか取ったことがないんだ。
じゃあ、どうして4科目も取ってしまったのかって言うんだろう? 聞いてくれ!
学年末テストが近づいたある日俺は岡本に言った。
「頼む、また40点コースで対策を教えてくれ」
40点コースというのは、どの科目も40点以上取れるように傾向と対策を授けてくれるコースで、1日……と言っても学校が終わってからの4・5時間だが、それで終わるコースだ。
そのときには、夕食にカツ丼の出前を奢って、アイドルのブロマイドを数枚あげることで契約は成立する。
言っておくが、物事なんでもただで友情を貰おうとしては駄目だ。
それには感謝の印というものを形で示さないと駄目なんだ。
もちろんその時も、それなりの対価を支払う積もりで、その話をもちかけたんだ。
だが、岡本は予想外のことを言い出したんだ。
「悪い……天野君。今回はなんとか自分でがんばってくれないかい? 実は……」
その次に岡本に打ち明けられたことは、俺にとっては天地鳴動・空前絶後の大ショックな話しだったよ。
岡本はある女生徒を90点コースで教えることになったと言うんだ。90点コースといえば、テスト前の1週間のほぼ毎日をびっしり教えなきゃならないそうだ。
当然その方法であと1年間岡本が教えれば、相手の女は大抵の大学に片目をつぶっても入れるだろう。
推薦入学の枠があるから、高校の成績で楽に入ることもできる。
岡本は卒業するまでのあと1年以上の時間をその女生徒の為に使うんだそうだ。
だから、当然俺に構っている暇はないということになる。
「いったいどこの誰なんだ?その人は」
俺は「その女は」と言いかけて、ぐっと押さえてそう聞いた。
「勘弁してくれ,それは言えないんだ。秘密にしてくれと頼まれてるから」
そう言って、立ち去って行く岡本の背中を俺はただ呆然として見てるしかなかったよ。
だがいつまでもそうしてはいられない。俺は俺なりに勉強したよ。
岡本が言うには、テストの40点分は本当に基本中の基本をやっていれば取れるそうだ。
俺はその基本中の基本を自分で判断して勉強したんだ。だが、その予想が4科目分外れたのさ。
そして赤点が発表されてから、追試験まで後1週間しかない。
俺が焦っているのはそこなんだ。
そこで俺は再度恥を忍んで、岡本に頼んだ。
何故なら追試験では50点以上取らないと合格にならないからだ。
「頼む。もう学年試験が終わったから、例の人に教える必要はないんだろう?
俺に50点コースで教えてくれないか?」
「ところが……」
岡本の言うには、その相手の女が3日目のテストの3科目を風邪欠席で受けていなかったと言うんだ。
そのため、追試験と同じ日に学年末テストを受けなおすそうなんだ。
なんで風邪なんか引きやがるんだ! 
でも90点コースですでに教えてもらってるから大丈夫だろう、と俺が言ったところ。
「その人は時間が立つと覚えたことを忘れてしまうから、もう一度教えなおさなければだめなんだ。だから、ごめん」
ええっ!? どれだけ頭が悪いんだ?
 


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