ミス・フェロモン登場-1
俺は頭に来て、ヨッシーとサッシーを呼んだ。この２人は俺の女友達だ。
色気抜きで付き合ってる貴重な友達だ。ヨッシーは普通の女の格好だが、サッシーはショート・ヘアにジーンズのボーイッシュ＆カジュアルなスタイルだ。
あっ、言い忘れたが俺の学園は私服自由なんだ。
「どうしたの、天野？ 追試験の勉強で忙しいんじゃなかったのかい」
そう言ったのはバドミントンクラブのヨッシーだった。
目と口が顔の中心の鼻からやや離れている。つまりかなり間延びした顔だが、それだけにその顔を見ると何故かほっとする。
「俺の個人教授の助っ人がどこかの女に誑（たぶら）かされているらしい。分かんないか？」
「助っ人って、あの天才岡本かい？ 知ってるよ」
「えっ、知ってるのか？ だ……誰だ？」
ヨッシーは笑って、サッシーの方を見た。サッシーは肩をすくめた。
サッシーは一見美少年に見える美形だが、いつも皮肉っぽい陰みたいなものを持っている。
そのサッシーがヨッシーに促されて言った。
「僕の知ってることはほんの一部だけど……」
サッシーは自分のことを僕という。できるだけ自分の女の部分を隠すためなのか、それは良く分からない。まあ、それはどうでもいい。そのサッシーが続けた。
「名前は尾志谷麗子（おしや れいこ）、２年生で岡本と同じクラスだよ。３学期に入ってこっちに転校して来たんだ。あだ名はすぐに全学年に広まったよ。ミス・フェロモンって言うんだ」
げっ……全学年に広まったって？ なんで俺がそれを知らないんだ？
「ほら、天野って女の情報となると意識的に避ける傾向があるだろう？ だから知らなかったんだよ」
サッシーの野郎！ やんわりと俺に皮肉を言いやがって。まあ、今はそれは良い。
問題はなんでそんなあだ名がついたかってことだ。
サッシーの情報によると、押志谷は大きな町に女ども２・３人と遊びに行くとマンハントをするそうだ。
お金を持っていそうなおっさんが声をかけてくるように仕向け、食事に誘うようにうまく誘導する。
「ああ、そういえばお腹がすいたわ。ミキ、カナ、どうする？」
「でもレイコは口が奢ってるから、一流のところでないと」
「ああ、それなら良いところを知ってるよ。私に奢らせてくれないか？」
「あら、そんなの悪いですわ、おじ様にご迷惑がかかるし……」
ってな具合に高い店に行って散々食べた後、トイレに行く振りをしてドロンをするという性悪なことを平気でするらしい。
バレンタインには１個１０円くらいのチョコを適当にばら撒いて、ホワイトデーに一口１０００円以上のお返しを集めるそうだ！
１０円で１０００円以上はエビで鯛を釣る以上だろう！ ぼったくりだ！
高校生で車を運転する奴なんて珍しいが３年生で親が修理工場をしている河野という男がいつも車で登下校していた。
その河野が押志谷が転校して来て３日目に送り迎えをするようになったのさ。
お前はお嬢様かって言うんだ。
その次に説明してくれたのはヨッシーだった。
「私も良く知らないよ。他人の恋愛とかには興味はないからね」
お前は自分の恋愛にも興味がないだろう。あっ、それは言っては駄目だ。危ない、危ない。
「初めは岡本晋也に目もくれなかった尾志谷麗子が学年末テストが近くなると、奴に急接近し始めたんだよ。
そしてその小悪魔的なテクニックで岡本を虜にしたって感じかな？
もちろん学年末テスト対策が目的さ。
２年生の学年末の成績は推薦入学なんかにも有利に響くからね。
でも尾志谷は９０点コースを頼んだのに７０点くらいしか取れなかったそうだよ。
あの岡本が付ききりで教えてそうなるのは、普通ありえないけどね」
どれだけ頭が悪いんだ！ だけど、風邪を引くくらい勉強したのも事実なんだろうが。
「それも違うよ。テストの２日目が終わったら、仲間を誘って街に出て夜中まで遊んだそうだよ。
それで寝坊してしまったので、風邪を引いたとか言って電話を学校に入れたとか」
おのれ！ どこまで腐った性根をしてるんだ！
折角教えてくれた岡本に対してすまないと思わないのか！？
「思ってないと思うよ。
仲間に岡本のことを『テスト前の無料家庭教師』とか言ってるらしいから。
それにこれからもテストの１週間前だけの付き合いにする積りらしい」
それで岡本は満足してるのか。岡本！ 目を覚ませ。押志谷はお前を利用している。
ってここで言っても俺の心の声は奴には届かないか。
だが、どうしてそういう情報をお前は知っているんだ。
ヨッシー、もしかしてお前がその仲間なのか？
「そうじゃないよ。
ミス・フェロモンのばらまきフェロモンのせいで、随分被害を受けている女の子がいるってことなんだよ。
そういう子が仲間の友達のそのまた友達から聞いてきたことを私に教えてくれるんだ」
まあ、ヨッシーの情報源についてはこの際どうでも良いか……。