3日目-6
きっと芳江さんはあまりにも夢中だったので、髪の毛を抜かれたのにも気づかなかったのだ。
もちろん僕も目を瞑っていたから、出て行ったのに気づかなかった。
二人は夜中に一緒に風呂に入った。そして背中を流しっこした。
「これ……本当は別々に入らなきゃ駄目じゃないんですか?」
「まだ夜が明けてないから大丈夫よ。さあ、体を拭いて寝よう」
二人ともパジャマを着て寝たが、僕が芳江さんのそばに寄ると、チンチンをつねられた。
「良い?約束を破るとちょん切るからね。それにもうエッチは駄目。寝るよ」
その後は僕は覚えていない。朝起きた時、芳江さんはいなくなっていた。
芳江さんは確か村を出た後、戻って来ないとか言ってたような気がする。
3日目の昼間、青年団の若者たちが15・6人押しかけ来た。爺ちゃんは、僕が疲れて寝ているから帰ってくれと言っても、なんだかんだと言って帰ろうとしなかった。
村の掟だからと言うことで、爺ちゃんが若者たちに酒のお金を出しているらしい。
「だから、お前達だけでその酒を集会所で飲んでくれ。来てくれたことは孫が起きたら伝えておくから、それでいいじゃろう」
「爺さん、それじゃあ、筋が通らないよ。お孫さんは最後の晩を過ごす前に俺達から杯を受けて、2日間の様子を報告して俺達から助言を貰うというしきたりじゃないか」
僕はそれを聞いてて爺ちゃんの形勢が不利だと思った。それで逃げずに約束を守る方法を考えた。
「あーあ、爺ちゃん。皆が騒いでるから煩くて目が醒めてしまったよ。この人たちは誰?」
僕はそう言って青年団の前に顔を出した。すると青年団は酒を勧めて来た。
僕は酒をチビチビ目薬をさす時の分量くらい僅かずつ飲んでから息を止めて顔を真っ赤にした。
「ああ……ぼ……ぼく、オトソでも酔っ払ってしまうんだよ。目が廻る」
僕はお母さんと離婚した酔っ払いのお父さんの真似をした。青年達は酒をそれ以上勧めなかったが、美佐のときはどうだった?とか芳江のときはどんな声を出したとかしつこく聞いて来た。
その人達は目をぎらぎら輝かせて、まるでトリツキのような顔つきで僕の言葉を待っていた。僕は……
「とーーりーーつーーくーーぞーーー。とーーりーーつーー……」
僕はトリツキの囁き声を真似て声を出した。青年団の人たちはシーンとなった。
「そう言って僕をずっと見てた。舌の先が2本あって黒くて長かったよ。
そして1本だけ長い腕を持っていて、後は太くて長い大蛇の体なんだ。
顔はとっても大きい女の人の顔で、目がギラギラしててとっても怖かった。
そして僕が気を失わないようにお姉さん達が声をかけてくれていたような気がするよ。
そして……とーーりーーつーーくーーしーーまーーがーーなーーいーー」
僕がまたトリツキの口真似をすると、青年団の人たちは青ざめた顔をして震え上がった。
もうあのギラギラした目をしていなかった。
「……それを言った後、部屋から出て行ったみたいだった。僕はその後気を失ったんだ。
朝目が醒めると僕一人で寝ていたよ」
「美佐とか芳江は何をしたんだ?」
一人がそれでも聞いて来た。
「僕は……トリツキに睨まれていたから、それ以外は覚えていないよ。本当に怖かったから。でも、美佐さんも芳江さんも僕を守ってくれたことだけはわかったよ」
「そうか……」
質問をした男の人はそう言うと、僕に言った。
「言い伝えによるとトリツキはその他にも女の髪の毛を抜く前に一言何かを喋るそうだ。
それを聞いた者は今まで一人もいない。もしかするとミツル君なら聞き取れるかもしれないな」
「さあ……僕には多分無理でしょう。何しろ、本当に小さな声で囁くから……」
僕はそう言って頭を下げて奥に入った。
そのとき僕ぐらいの年恰好の眼鏡をかけた女の子とすれ違った。
誰だろうと思った。爺ちゃんの家に手伝いに来てるのだろうか?
僕は奥の部屋に入ると少し寝転んで休んでいた。