偽りの王V-1
秀悠に手渡されたカップを手に、葵は想いをめぐらせていた。
・・・わかっていたつもりなのに・・・私はきっと何もわかっていない・・・この世界の人たちのこと、神官のこと・・・
見渡す空は暗く陰り、晴れぬ葵の心と酷似していた。
その時、そっと肩に手を置かれゼンが葵の頭をなでた。
「お前は絶対の存在だが万能じゃない。迷いも悩みもない王など存在しないんだ」
諭すようなゼンの優しい眼差しに葵は小さく頷いた。(なんて優しい瞳・・・きっとゼン様は私なんかよりたくさんの苦悩と向き合って乗り越えて来たんだ・・・)
「ゼン様の治める世界、そこに住む人たちを・・・一度でいいから見てみたいです」
微笑み返した葵を見つめながらゼンは葵の手に己の手を絡めた。
「俺がお前とこうして出会えたこと・・・偶然なんかじゃない。はじめから巡り会う運命だったと俺は信じている」
「はい・・・」
熱を秘めたゼンの瞳に射抜かれ葵の頬は赤く染まった。
「必ず連れて行ってやる。俺の治める国に・・・」
強く抱き寄せられ耳元でゼンが囁いた。
「俺の妃として」
幸せそうに微笑みあう二人の王を柱の影から秀悠がみつめている。二人の間に入ることも出来ず、彼女に手を差し伸べることもできない。
いたたまれずその場をあとにしようとした秀悠のもとに、薬を受け取りに来た町人がその扉を叩いた。
「先生いらっしゃいますか?秀悠先生?」
我に返った秀悠が急いで扉をあけた。
「・・・遥人さんでしたか、薬の用意出来てますよ」
何やら心ここに非ずの秀悠に首を傾げる青年。
「・・・先生?どうかしましたか?」
言われた秀悠は遥人と呼ばれる青年を振り返ったまま室内へと薬をとりにいった。
「え?どうとは・・・・・ぅわっっ!!!」
途中にあった椅子に躓いて転んでしまった秀悠。大きな物音に気が付いた葵とゼンが奥の部屋から姿を現した。
「秀悠っ!!大丈夫ですか?」
駆け寄ってきた遥人と葵、そしてゼンがそれぞれ見慣れぬ顔に一瞬動きを止めた。
「あ・・・先生すみません、お客さん来ていたんですね」