偽りの王U-1
秀悠がゼンの存在感に圧倒されている頃、町では曄子が妙な噂を耳にしていた。
「この世界を加護してくださっている女王陛下が隣国に舞い降りられたそうだぞっ!!」
「聞いた聞いたっっ!!
神官殿を従えて各地を見てまわられているらしいな!!」
「この町にもいらしてくださるだろうか・・・」
「・・・・っ」
町人のはしゃぐ声に振り返った曄子は、女王陛下や神官という言葉に反応して唇をかみしめた。
(葵さんも仙水さんも・・・お忍びで来ることはもうないんだろうな・・・・)
女王と神官として振る舞われたら、曄子などその高い壁に阻まれ言葉を交わすことさえままならないだろう。
小さくため息をつき、肩を落とした曄子は重い足取りで自分の家へと向かった。
と、途中・・・
息を切らして走ってくる青年とすれ違った。
「おいっ!!
明日この町にも陛下がいらっしゃるらしいぞ!!お出迎えの準備だ!!」
「・・・え?」
それを聞きつけた町人たちは大慌てで広場に集まり始めた。茫然としている曄子に近所のおばさんが目を輝かせて声をかけてくる。
「曄子ちゃん!!聞いたかい!?
この世界の女神様が来るんだって!!」
ある者は人界の王を陛下と呼び、またある者は彼女を神と呼ぶ。生きている間にその姿を目にすることさえ奇跡に近く・・・皆、祈るように手を合わせて胸をときめかせていた。
「女神様も神官様も・・・慈愛に満ちたお美しい方なんだろうねぇ・・・」
うっとりするような眼差しで中年の女性は空を見上げていた。
「・・・本当に素敵な人たちだよ」
そう呟いて曄子はにぎわう広場をあとにした。