クラスメイトはスナイパー-2
黒いスーツに身を纏った、追っ手達は月明かりに照らし出された自分達が銃を向ける相手を見て絶句した。
無造作なボサッとした髪に、整った顔立ち、そして薄明るい空間に不気味に輝く緑色の左目……。
「グリーン・クロウ……」
「こんなガキだったのか……」
グリーン・クロウ、それは今まで烏が殺ってきたターゲット達が烏につけた通り名。
緑色の瞳を持つ不吉を呼ぶ烏に狙われた者には死が訪れる……。
「ビビるなっ!相手は丸腰っ、逃げ場もないっ」
たじろぐ二人の追っ手を、スキンヘッドの欧米系の追っ手が怒鳴りつけた。
その言葉を聞いた二人の追っ手は慌てて銃を構え直し、ジリジリと烏との距離を詰め始めた。
「さぁ、どうするグリーン・クロウ。名前の通り飛んで逃げるか?」
薄ら笑いを浮かべながらスキンヘッドの追っ手は言った。
烏はフゥと小さく、そしてゆっくりと溜息を吐くと、こう返した。
「……それも悪くない……」
「ほざけっ!終わりだグリーン・クロウ!」
追っ手達の指がトリガーにかかる。
烏はリュックを持つ手に力を入れ直すと、静かに呟いた。
「終わり……?違うな、終わりは始まりだ……」
そして、地面を蹴り上げ夜空に向かって大きく飛脚した。
「撃てっ!殺せっ」
ゴゥン、ゴゥン……。
飛んでくる弾丸をかい潜る様に烏は空中で後転すると、そのまま目下50メートルはあるだろう高速道路に落下していった。
そして、リュックを持っていない片腕を頭の前に翳し、頭を保護すると、高速道路を走り抜けるトラックの積み荷の中に垂直に突っ込むと言う荒業を見事やってのけた。
……烏を乗せたトラックは、道沿いに夜の街に消えて行く……。
…………残された追っ手達は、烏の生否を確かめるという仕事すら忘れ、只、確かに先ほどまで烏がいたこの場を見つめていた……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――人気のない路地裏の壁に烏はもたれかかっていた……。
幸い、あの落下にもかかわらずトラックの積み荷が製粉だった為か行動に支障が出る程の怪我はないようだ。
烏はゆっくりと目を閉じた……。薬(ヤク)の効果がきれ始めたせいか、副作用として多大な疲労間が烏をおそったのだ。
……そんな烏の様子を路地裏に立ち並ぶ建物の屋根の上から見ている一人の少女がいた。少女は烏が目を閉じたのを確認してから、ゆっくりと静かに烏の眠る路地裏に足を降ろした。
その足音一つ立てない、動きから彼女もまた烏と同じ『プロ』であることが伺いしれる。
……彼女は烏の目の前まで来ると両手を後ろに組み、少し屈んで烏の顔を凝視した。
そして、我が子を見守る母親の様な優しい笑顔を浮かべながら、ゆっくりとその手を烏の顔へと近づけていく……。
「……なにをしている、ウグイ」
彼女の手が烏に触れようとした正にその時、烏の口が動いた。
「あちゃ〜烏っち、起きちゃった?」
ウグイと呼ばれた少女は、烏の顔に伸ばしていた手を自分の頭の裏に持っていくと、はにかんだ様に笑った。
「烏っちが、あんまりにも可愛いから抱きしめてチュ〜ってしちゃおうと思ってさ」
ウグイは両側で縛った赤い髪をサラっと風に流しながら悪戯っぽく烏に言った。
それに対し烏は自分のボサッとした髪を片手でかきあげながら、ゆっくりと目を開け、ウグイを睨みつける様に敵視しながら、こう返した。
「……なんの用で来た?」
ウグイは壁に力無くもたれかかる烏に、まだ幼さが残る自身の顔を近づけると、にこっと笑った。
「彼女が、彼氏に会いに来るのに訳なんかいらないと思うけどな〜」
「……何をしにきた?」
「ん〜、もぅ、烏っちはせっかちなんだからぁ」
ウグイは、そう言うと烏から顔を離し、真っ黒のワンピースの丈を擦りあげていく。
そして、太股あたりにつけたホルダーまで丈をまくし上げると、そのホルダーから拳銃を取り出した。
重く質感のある、それをウグイは烏に向ける。
烏はウグイの向けた銃口を見つめながら声を漏らした。
「……俺を消しに来たのか?」
「うん。ご名答〜、さっすが烏っち」
屈託のない笑みを浮かべながらウグイは、烏を見つめる。
「……ボスの命令か?」
「鋭いね、烏っちは。そゆとこ大好き」
「……そうか……」
全てを諦めたかの様に烏は脱力し、目を閉じた……。
『組織』において失敗は死を意味する。
烏もそれは知っていた……。
この18年間、ボスが殺れと言えば、誰でも殺ってきた……。男、女、子供……。
誰でも……。
しかし、今日は違っていた。
迷いの理由は解っている。ターゲットと、その娘がダブって見えたのだ。
自分とボスに……。
「バイバイ……烏っち……」
ドゥン………。
銃声が夜空に響き渡った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――(う〜、今日から新学期かぁ)
僕は騒がしい教室に入るなり、黒板に書かれた席に腰をおろした。
あっ、自己紹介がまだだったね。僕は斉藤 三五(さいとう さんご)今年、高校三年になりましたです、はい。
進路……?まだ、そんなの決まってないよ…。
まぁ、多分うちの親と同じでこの町の小さい町工場にでも就職することになるんだと思う。
はぁ、ひとしきり自己紹介しただけで、かなりブルーになった。
つーか、これ、もしかして僕が主人公?
無理ッスよ無理無理……。
ゆっとくけど、僕、ガ○ダムなら搭乗機ボー○だよ、ボー○キャラだよ?
ドガスっっ!
「いてっ!」
いきなり誰かに頭をどつかれる。
一瞬、忍びの者か?などという思考が頭をよぎるが、今が平成の世界で、現在地が教室ということから、その線はないということを脳みそのしわに刻みこむ。
良しっ!
「って誰だよ。僕の頭をどついたのはっ」
「……大丈夫?とりあえず目がイっちゃってたから、現実世界に呼び戻す為に一撃入れてあげたんだけど……」
「だからって延髄にチョップ入れることないだろ」
僕は首を摩りながら、僕を殺害しようとした女に言った。
この女は中谷 可奈子(なかたに かなこ)僕の幼なじみであり、ちょっと気になる存在……だったりはしない。
いわゆる腐れ縁で高校まで一緒なだけの『友達』だ。
「そんなことより今日ね〜、転校生くるらしいよ。しかも、スッゴイカッコイイ男の子」
可奈子は目を輝かせながら、『カッコイイ』と正反対にある『冴えない』僕に嬉しそうに話した。
「へぇ……、そりゃ良かったね。つーか、もう三年なのに転校?どっかのアニメじゃないんだし……」
「はーいっ、お前ら座れ!」
先生が入ってくる。
「今日は転校生を紹介するぞ。おーい、入ってこい」
転校生の登場と共に、女子達の歓声が巻き起こる。
やべぇ、マジでジャニーズばりにカッコいい。
「烏丸 弾です……。よろしく」