『SWING UP!!』第12話-6
“隼リーグ”は、前期の日程を終えたが、新しく企画された“東西交流戦”が1週間後に控えている。“神宮球場”で開催されるその交流戦は、“隼リーグ”の1部リーグに所属するチームから、選抜されたメンバーが集まり、西の“猛虎リーグ”選抜チームと対戦をするのである。
そして、桜子も、攻守に渡る前期の活躍を認められ、選抜メンバー候補として、出場の打診を受けた。
だが、桜子はそれを辞退していた。選んでもらったのはとても光栄で、申し訳ないとも思っていたのだが、やはり、由梨のことを優先したい気持ちには変えられなかった。“東西交流戦”は、公式戦とは違うので、桜子の考えている重要度の“天秤”は、今回は由梨の方に傾いたのだった。
ちなみに、辞退をした桜子を除き、双葉大学から選抜メンバーとして選ばれたのは、
草薙 大和
岡崎 衛
屋久杉 雄太
の、3人である。
大和は、2度のノーヒッターを始め、エースとして申し分ない活躍をしていたから当然の選出といえよう。
岡崎は、1番打者として、高い打率と出塁率を記録する一方、守備でもチームに大きく貢献していることが評価された。
雄太は、チームのキャプテンとして、創部間もない野球部にもかかわらず、“2部リーグ”から初めて“1部リーグ”に昇格をさせた功績が評価されての選出となった。
『“神宮球場”で、野球が出来る!!』
メンバーに選ばれたことを知った雄太の昂奮は、無理からぬところであった。岡崎も、涼しげな顔つきをしていたが、誰も見ていないところで小さくガッツポーズを作っていたのを、桜子は見逃さなかった。
「あら、奇遇ね。由梨さん、桜子」
「あ、晶さん!」
ややあって、待合室にもうひとりの知り合いが姿を現した。木戸 晶である。
「晶さんも、今日が受診?」
「ええ、そうなの」
晶もまた、夫である亮から受け止めた精が当たり、念願の受胎を果たして、大事な命をその身に宿す、妊婦となっていた。
京子と由梨が先に妊娠したので、強い焦燥を感じていた矢先に、身篭っていたことが分かって、そのときは本当に、晶は、涙が出るほど嬉しかった。
そして、由梨の勧めを受ける形で、この“ねむろ・マタニティ・クリニック”に、晶は通うようになっていたのである。
「ひとみさん、こんにちは」
「こんにちは、晶ちゃん」
そして、由梨と同じように、妊婦としても、母親としても、“先輩”というべき一美のことを、晶はやはり慕い、頼りにしていた。
「そういえば、生まれてくる子供は、みんな同級生になるのね」
ふと、一美がそんなことを呟く。
「同級生……」
「そっか……」
由梨も晶も、初めての妊娠なので、子供が生まれた後のことまでは頭が廻っていなかったから、改めてそう言われると、感慨深いものを感じる。
「そういうことなら、京子の子供も、同級生になるんじゃない?」
今は6月だから、3人の予定日を考えれば、晶の言う通りである。
「京子さん、もうすぐ?」
「たしか、ここ2,3日が予定日だったはず…」
「そっかぁ……」
先週も、大きなお腹を抱えて、散歩がてらに“蓬莱亭”に顔を出していた京子だ。そういえば、昨日、再び“ダイゴ・リカー”の手伝いをするようになった京子の伯父が、物品納入のときに、“お産に備えて、入院したんだ”と龍介に対して言っていたから、出産はもう間近いのだろう。
「元気な赤ちゃん、生まれるといいな……」
京子は、この“ねむろ・マタニティ・クリニック”とは違う産婦人科を受診しているから、その動向を伺うことは出来ない。
「大丈夫よ。京子なら」
「ええ。京子さんなら、きっと」
由梨、晶、京子の、いわゆる“三姉妹”の中で、一番手で出産に臨むことになった京子。その京子が、無事にお産を済ませることを、心から祈り思う…。
そんな心優しい女性たちの輪が、そこにはあった。